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人々の心に棲む虎 今野嵩琉個展「虎日記」開催

秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで12月13日(土)から、秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻3年の今野嵩琉による個展「虎日記」を開催します。人々の心に棲む「心像としての虎」に着目し、夢と現実が交錯する日記をもとに制作した作品を展示します。

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夢についての関心から絵画を中心に制作を行い、意識と無意識の関係性について考察する今野嵩琉(秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻3年)の個展「虎日記」が12月13日(土)から、秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINTで始まります。

この記事では今野が夢にモチーフを求めてこれまでに制作してきた作品や、夢と現実の関係性への解釈の変遷を辿りながら、虎を主題とした今回の展覧会に至るまでを紹介します。

夢の記録から絵画へ

高校生のときにジョルジョ・デ・キリコ(1888年~1978年/イタリア)の絵画作品《愛の歌》(1914年)に衝撃を受けて美術大学への進学を志したという今野が最初に油絵を描いたのは大学に入学してからだといいます。高校を卒業する頃から夢の記録をつけていた今野の手元には印象的な夢の風景が溜まっており、それらを題材として絵画制作を始めました。

今野が初めて開催した展覧会「ラプトルと中年婦人の夢」(秋田公立美術大学)が、自身の夢の記録に基づいて書いた同名の短編小説から作られていたように、今野にとって夢は作品制作の重要な素材となっています。

《ラプトルと中年婦人の夢》(2024)

2024年12月に行った展覧会「喋る羊の夢」(アトリオン)では、自分や他者、動物が見た様々な夢を取り上げ、「現実と夢の連続性を視覚化する」ことをテーマとしました。

様々な夢の場面が描かれた絵画には、夢の記録から抜粋された文章が添えられています。絵画に囲まれるようにして、空間の中央には夢に登場したオブジェが配置されています。「夢の源泉」(個人的無意識と、更に深いところにある普遍的無意識)をイメージしたものだといいます。

今野は絵画に留まらず、オブジェも表現の中に組み込んだ背景について、「現実とのつながりを持たせるために置いた」と話しつつ、次のようにも語りました。

「絵画はどうしても部分的なメディア。夢には時間の流れがあるけれど、絵画だけだと光景を釘で打って固定してしまう。それは嫌だなと思ったんです」

《喋る羊の夢》(2024)
展覧会「喋る羊の夢」

夢と現実を往還する日々の記録

夢の記録を継続的につけていた今野にとって、記録のつけかたを変えてみようと思わせる出会いがあったといいます。あるとき授業の中で紹介されたミシェル・レリス(1901-1990/フランス)の書いた文章でした。

1931年から1933年にかけてアフリカ横断調査団に書記兼文書係として参加したレリスが残した文章には、公的な記録としてあるまじき私見、性的な告白、夢の記述などが含まれていました。主観的な記録を突き詰めた先で、主観を乗り越えて客観に至るという姿勢に影響を受けたと今野は話します。

「レリスの日記を読むまで、夢だけの日記を書いていた。今は、寝る前にその日のできことをオートマティズム的に記録し、朝起きたら夢の記録をつけています」

今野が日々のことを書き留めているというフィールドノートには夢の記録と毎日の日記、対話の記録、調査の記録、作品のためのエスキースが混合しています。

虎を夢に見る・見に行く

「喋る羊の夢」において一つの展示空間に複数の夢が散りばめられていたように、それまでは印象的な夢を見たあと、1枚の作品を描いたら、その夢についての制作は終わりだったといいます。しかし、今野はより深く夢と現実の相互関係について探求するため、一つの夢に時間をかけて対峙し、その後の影響があるかを知ることを試みました。

 《盗まれた自転車とその余波》は、そのタイトルが示す通り、今野の自転車が何者かによって盗まれたという出来事を掘り下げた作品です。犯人を追いかける夢、バラバラになった部品から自転車を組み立てる夢などから、今野は意識と無意識の関係性を紐解き、作品を制作していきました。

《盗まれた自転車とその余波》(2025)

今回BIYONG POINTにて開催する展覧会「虎日記」でも、今野は一つのモチーフにじっくりと対峙します。内田百閒(1889-1971)の短編小説「虎」を読んだことをきっかけに、虎の夢を何度も見るようになった今野は、日常でも虎を意識するようになります。虎を夢に見てから、ついには虎を動物園に見に行くことになるまでの日記をもとに、絵画を含む、複数のメディアを用いた作品を展示します。

これまで絵画、オブジェ、文章を組み合わせて作品を発表してきた今野が、更なるアイデアと手法を織り込み、多様な虎のイメージから人間の意識・無意識の興味深い関係性について考察します。

2025年度ビヨンセレクション採択企画

本展は2025年度ビヨンセレクション採択企画です。
ビヨンセレクションとは、2021年よりスタートした秋田公立美術大学の学内公募事業です。個展・グループ展などのBIYONG POINTでの展覧会を通じて、意欲的な学生による日頃の研究・創作の成果を発表します。展示期間中にレビューを受ける機会を設け、作品の撮影記録とともに評論を公開し、学生らの将来の作家活動を視野に入れた支援を行っています。

Profile 作家プロフィール

秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻3年生

今野嵩琉 Takeru Imano

2004年兵庫県生まれ。秋田公立美術大学3年、アーツ&ルーツ専攻在籍。夢や無意識を人類のルーツと捉え、現実と夢の内容を交互に記録した日記をもとに意識・無意識の関係性についてリサーチや制作を行っている。昨年は秋田県の若手アーティスト支援事業である「アーツアーツサポートプログラム」に採択され、個展「喋る羊の夢」をアトリオンにて開催した。

Information

今野嵩琉 個展「虎日記」


■会期:2025年12月13日(土)~2026年1月22日(木)
    入場無料
■休館日:2025年12月29日(月)〜2026年1月3日(土)
■会場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT
   (秋田市八橋南1-1-3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
■時間:9:00〜17:30
■主催:秋田公立美術大学
■協力:CNA秋田ケーブルテレビ
■企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた
■お問い合わせ:NPO法人アーツセンターあきた
TEL.018-888-8137  E-mail bp@artscenter-akita.jp

※2025年度秋田公立美術大学「ビヨンセレクション」採択企画

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