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哲学的思考をプログラミングで描く 林文洲「人生の巡礼」展

一生のプロセスや日々の感情の揺れ動きを映し出す展覧会「人生の巡礼ーー生老病死・喜怒哀楽 」が、秋田公立美術大学サテライトセンター(フォンテAKITA6階)で開かれています。大学院複合芸術研究科に在籍する林文洲による映像展。

哲学的思考を映し出す
「人生の巡礼–生老病死・喜怒哀楽」

秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科2年に在籍する林 文洲による展覧会「人生の巡礼−−生老病死・喜怒哀楽」が22日(火•祝)まで、秋田公立美術大学サテライトセンター(フォンテAKITA6階)で開催中です。

美術表現における人生観・死生観を研究する林が、「生老病死」のプロセスと「喜怒哀楽」の感情を映像で表現。ジェネレーティブアート(Generative Art)による光と影の交差・流転を通じて、一生におけるリズム、ダイナミズム、そして様々な感情の起伏や感情に底流するものを映像として「翻訳」しようと試みています。

「我々は、生まれながらにして何らかの脚本を与えられ、『表世界』に登場した。凡人である我々は脚本の存在を知るか否かにかかわらず、演出し、矛盾を感じ、葛藤しながら波乱万丈の人生を送っていく。それは、いわゆる人生の巡礼なのだ」

そう語る林が、それぞれに見出した法則によってプログラミングした<生><老><病><死><悲しみ><怒り><楽しみ><喜び><人生>の9作品を投影します。林の哲学的思考を日本語・英語・中国語の3つの言語で解説。<生>と<死>をプロローグとして、人生のプロセスにおける曖昧で儚いイメージを論理的に組み立てていきます。

理論をもとにグラフィックが生まれ動くシステムによって、
自律的に色や形をつくっていく

誕生から老衰へと至る「残酷で絶対的な道筋」での人生との向き合い方について林は、日本と西洋の中世に着目。当時の美術表現における人生観や死生観を研究するかたわら始めたのが、モーショングラフィックスを使ったプログラミングでした。林はこれまで、現代社会の死生観における命の物質化、客体化、データ化を批判するような習作を試みてきました。

秋田公立美術大学大学院の萩原健一准教授は、「論文を執筆している学生ですが、思考を整理するために映像制作を始めたいと私のところにやってきました。理論だけではなく、制作に取り組めるのも秋美の特色。先の春休みに私が企画するプログラミングツールの勉強会に来て以降、数多くの習作をつくり、毎日欠かさずLINEグループに新作を投稿するようになりました」と振り返ります。その制作手法は、人生観・死生観の理論がベースとなりました。

「理論をもとにグラフィックが生まれ動くシステムを設計し、自律的に新しい色や形をつくっていく。人工物と自然の中間のような映像手法が彼の考えに適合したのだと思います。展示されている作品は、この半年間に彼がつくった膨大な数の習作のほんの一部でしかなく、毎日の見えない積み重ねによって生まれたものです」

<悲しみ>
<喜び>(手前)と<怒り>(奥)

ぐるぐると回転する毛糸玉から命の糸が引き出され、裏では何らかの新たなものが巻き込まれていく<老>、2つの気持ちが絶えず繰り返す心模様を映す<悲しみ>。ある法則のもとにつくられた動きと色と形が投影するのは、虚実交えて気まぐれな人生そのものの美しさ。言葉から遊離した心の動きの美しさーー。「人生」が光と影となって、会場に映し出されます。

人生の巡礼展 作品解説(日本語・英語・中国語)
林文洲 YouTube

Profile

林 文洲

中国・福建省出身。2014年、中国華僑大学・広告学専攻卒業。2019年、秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科入学。現在は死生主題の宗教美術をめぐって、東西比較美術史・思想史を研究している。2020年春休みより、Touchdesignerを学びながら映像の試作を続ける。

Information

林文洲「人生の巡礼ーー生老病死・喜怒哀楽 」

■会 期:2020年9月5日(土)~9月22日(火•祝)10:00~18:50
■会 場:秋田公立美術大学サテライトセンター(秋田市中通2-8-1 フォンテAKITA 6階)
■入場料:無料
■お問い合せ:秋田公立美術大学 学生課TEL.018-888-8105

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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