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映像デザイン基礎演習成果展2021 「 PinP | ピクチャー イン ピクチャー」

秋田公立美術大学・映像デザイン基礎演習の成果展2021「PinP|ピクチャー イン ピクチャー」が、秋田公立美術大学サテライトセンター(フォンテAKITA 6階)で開催されました。授業課題や自主制作したメディアアートなど学生の作品が並ぶ授業成果展をレポートします。

授業課題や自主制作作品を紹介する
「PinP|ピクチャー イン ピクチャー」

秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻の萩原健一准教授が指導する映像デザイン基礎演習の成果展2021「PinP|ピクチャー イン ピクチャー」が、秋田公立美術大学サテライトセンターで開かれました。

映像デザイン基礎演習は、多様化する映像メディアの特性を理解しながら表現の可能性について考察し、個々の研究制作に応用できる力を身につけるための授業。カメラ、モニター、プロジェクターの扱い方やさまざまなソフトに触れ、基礎知識を習得して映像制作と発表をおこないます。
「履修生のほとんどが初めての映像制作体験」という授業では、出題する多彩な課題に対して多様な手法を取り上げます。「映像制作において覚える機能を最小限に絞り、ほとんどのテーマを1〜2週間ほどに設定することによって短期間で素早くつくり、たくさん失敗してもらうようにしている」と萩原准教授。
課題「RALLY」では、人対人がお互いに何かをやりとりする状況を。課題「3Dファン」ではプロジェクションマッピングによる投影で意図的に光と影をつくり、立体物が自発光しているように見せる作品を制作しました。課題「LOOP」ではロトスコープを用いて「終わらない運動」を描き、2020年度夏季集中授業課題だった「PaperWork」では切り絵を使って風景に要素を加える課題に取り組みました。

▼PinP

▼昨年の様子はこちら
映像デザイン基礎演習授業成果展2020「PinP|ピクチャー イン ピクチャー」

3Dファンディスプレイによる疑似立体映像コンテンツ
「手」について新しい捉え方を模索した菊地美咲《おんなの子の手にむけての習作》
生命の誕生、鼓動、DNAなどをテーマにした松岡雪《heartbeat》
「RALLY」「LOOP」「PaperWork」などの課題に対して映像を制作

ぽっかりと浮かんだ
光の中でうごめくのは…

村田晴加(ビジュアルアーツ専攻3年)《ギョウザ》は、あんが詰まった餃子をモチーフにしたループアニメーション作品。餃子の特徴的なかたちから想像した動きをアニメーションで表現し、餃子の皮を連想させる円形のスクリーンに投影しました。

ギョウザのあんと皮?

制作にあたっては、まずは「丸い映像をつくりたかった。白い丸を生かしたいと思い、餃子にしかないかたちを思いつきました」と村田。かたちを生かそうと、餃子の動きにも丸を意識。「丸であることを考えながら、動きが繋がるように工夫しました。頭を空っぽにして、ボケーっと見ていられるような作品にしたかった。映像の見せ方を工夫して、ただスクリーンに映し出すのではない作品をつくっていきたい」と話します。

プロジェクションマッピングで
小さな部屋を空間演出

高橋樹乃(ビジュアルアーツ専攻3年)《emit》は、プロジェクションマッピングに挑戦した作品。映像を立体物に投影することで光と影をつくりますが、当初はまったく別のものを考えていたといいます。

「初めは架空の水槽がつくりたいと思っていました。水がない空間に水がつくれたら面白いと思っていたけれど、どうしたらいいか分からず萩原先生に相談しました。プロジェクションマッピングでやってみたら、ということで本を借りて一から勉強して制作することになりました」と高橋。基礎から始めた初めてのプロジェクションマッピングは、平面や立方体に投影するのではなく、小さな部屋のような空間に投影することで空間演出を試みました。「ホログラムやゲームなどが好き。現実の中に、こういう空間を持ってきたいなと思っています」

愛着を作り上げる実験装置

ギャラリーの足下で動き回っているのは、白田佐輔(ビジュアルアーツ専攻3年)の《ペット》。連続的な動きと猫のイメージを組み合わせることによって、鑑賞者に愛着を作り上げる実験装置です。

作品制作において「体験できるもの」を主眼に置く白田。今回、参考にしたのは1970年代にアメリカで流行したペット・ロックでした。石をペットに見立てて一緒に暮らす存在としてのペット・ロックに着想を得て、そこから、人間が世話をし、欠点に対してさえ愛着をもつようにつくられたロボットを連想。生き物なのか、生き物ではないかではなく、「愛着」をもてる存在として《ペット》を制作したといいます。動く四角い箱の中にはスマートフォンをはめ込み、友人の実家にいるという猫の映像をループで流しています。

「単純にかわいいという感想をもつ人もいれば、気持ち悪いと言う人も。完璧に動き回るものではなく、動きがにぶくなる部分もある。そんなダメなところに『愛着』を感じられるのではないかと。意図してそうなったわけではないのですが、制作によって発見できたと思います」

小さな箱にスマートフォンをはめ込んだ

コロナ禍にあって2020年度は、映像デザイン基礎演習においても感染予防対策がとられました。
「この年度は春から感染予防対策として、対面とオンラインを並行して実施する変則的な授業進行でした。学生によっては不安な制作状況だったかもしれませんが、それを感じさせないほど多様な発想が生み出されたことに可能性と希望を感じています」と萩原准教授。不安な情勢の中、映像制作に初めて触れた学生も多い映像デザイン基礎演習ですが、「コンピューターが得意な学生がのびのびと制作する様子に立ち合ったり、普段は紙や木などデジタルとは真逆のアナログ素材を触っている学生が新鮮な作品を作る場面に出会えるのが授業の面白い瞬間です。今後の展開が楽しみ」と語ります。

さまざまな素材やメディアを扱いながら、それぞれの表現が始まります。

Information

映像デザイン基礎演習成果展2021「 PinP | ピクチャー イン ピクチャー」

■会 期:2021年4月10日(土)〜20日(火)※会期中無休
■時 間:10:00〜18:30
■観覧料:無料
■会 場:秋田公立美術大学サテライトセンター(秋田市中通2-8-1 フォンテAKITA6階)

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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