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無意識のなかに存在する「暗黙の了解」や「ルール」が
固定観念を覆すパズルの仕掛けとなる

2021.10.26

パズル作家として活躍する浅香遊の原点は、描き続けてきたスケッチにあります。誰もが無意識のうちに決め込んでいる固定観念を覆すパズルの仕掛けは、どのように生まれたのか。スケッチを繰り返すことで見えてくる、美しさ、面白さとは。

新たな仕掛けを導き出し、驚きと意外性を生む思考に迫る
「路に落ちてた設計図」

パズル作家として活躍する浅香遊を特集した卒業生シリーズVol.7「路に落ちてた設計図」。本展は在学中の2018年にパズル制作を始めて以来、初となる作品展です。

アメリカ・サンディエゴでおこなわれた「世界パズルコンペティション」にて入賞後、浅香のパズルの仕掛けは驚きをもって受け止められ、世界的に注目を集めてきました。カナダの人気YouTuberが《JIGSAW29》を解く過程を「Solving The HARDEST JIGSAW PUZZLE!! – LEVEL 10!(最も難しいジグソーパズルを解いてみる―レベル 10)」と題して公開した動画は再生回数1,200万回を超えるなど、浅香のパズルは常識を覆すパズルとして高く評価されています。

「人の無意識には、形に対して暗黙の了解やルールがある」と浅香。人間の意識と無意識に着目し、誰もが無意識のうちに決め込んでしまった固定観念を覆す仕掛けを生み出すことで驚きと意外性のあるパズルを設計します。その難解さだけでなく、アクリルを切り出したピースの美しさも魅力のパズル。本展では、2018年から2021年までの3年の間に世に送り出してきた《JIGSAW29》《JIGSAW19》《WAVE7》《WAVE5》《ICE9》《BIRD11》《OLEO10》《JIGSAW16》をアーカイブ。セオリー通りでは決して完成しないパズルをデザインする浅香の脳内の動き、常識にとらわれず新たな仕掛けを導き出す思考に迫りました。

https://www.youtube.com/watch?v=hvJJppzJrHw(撮影・編集/白田佐輔、音楽/國府田拓郎)

逆転の発想へと導く、アイデアスケッチ

浅香のパズルの原点は、描き続けてきたスケッチにあります。「繰り返し描いていくことで思いがけないパズルが生まれる」と浅香が言うように、ひとつのモチーフに対してさまざまなアイデアを大喜利のように繰り出し、アクリルの裏紙やノートなどにアイデアスケッチを繰り返し描いていきます。「アイデアが出てきたら、それに合わせて作品形態を選んでいく。もともとある設定に対しては、設定自体を変えていく。そんな逆転の発想からつくり出していくのが自分の方法」と話します。

変化していくパターンはエッシャーの版画のようであり、絵であり、言葉であり、色であり、思考の片鱗として展開していきます。また、スケッチの合間に思いついたように綴る「回文」の難解さもまた浅香の特徴です。

「路に落ちてた設計図」では日々描き続けてきたノートや裏紙から抜粋。繰り返し描きながら面白い形や美しさを探る様子がうかがえるスケッチ

右上はジャズのスタンダート・ナンバー「OLEO」を聴いて描いたスケッチ。アクリル絵画を描くための下絵としてペンを走らせていたはずが、パズルに置き換わった

高校生だった2012年に何気なく描いたジグソーパズルのアイデアスケッチ。これが約6年後、初作のパズル《JIGSAW29》の原案となった

人の無意識に共通する「暗黙の了解」や「ルール」を
トリックとして取り入れた《JIGSAW29》

大学3年時に初めて制作した《JIGSAW29》は、通常のジグソーパズルに新しい仕組みを取り入れることを目的にデザインしたもの。もともとのアイデアは、高校生だった2012年に何気なく描いたスケッチにあります。人の無意識に共通する「暗黙の了解」や「ルール」をトリックとして取り入れ、アクリルを切り出して制作した《JIGSAW29》は2018年「世界パズルデザインコンペティション」で入賞し、浅香がパズル作家として歩み始めるきっかけとなりました。

通常のジグソーパズルは、ひとつの絵の画面を凸部と凹部のあるいくつものピースに分解し、凹凸をかみ合わせることで再び組み立てていきます。浅香が考案したジグソーパズルは、凸と凹をかみ合わせるという暗黙のルールを仕掛けとして利用。凹みと凹みの組み合わせや、辺に置くはずのピースを真ん中に、真ん中に置くはずのピースを辺に、角に置くはずのピースを他の場所にと、人間が無意識のうちに決め込んでしまった常識を逆転させました。

左から《JIGSAW29》《JIGSAW29》2018年/13.6×13.6cm

《JIGSAW29》の次にデザインした《JIGSAW19》は全てが角のピースで構成されています。ジグソーパズルには通常、4つある角ピースを四方の角に置くという暗黙の了解がありますが、《JIGSAW19》では「それを最初の手掛かりとして解き進めるという手段を封じることに重点を置いた」と浅香。ピースの中から角ピースを手に取り、四方のいずれかの角に置いていく‥‥そんな行為が無意味となる全てが角ピースのパズルには他では決して味わえない面白さ、出来上がりの美しさがあります。これら《JIGSAW29》《JIGSAW19》は、ジグソーパズルでは基本的には存在しない「素数」のピース数でできていることも大きな特徴です。
※《JIGSAW20》《JIGSAW19》は2021年夏、玩具メーカーのハナヤマから「沼パズル」として商品化されました。

シンプルな構造とシンプルなトリックが描く
美しくも複雑な《WAVE7》《WAVE5》

浅香の3作目となった《WAVE7》は、シンプルな構造のなかにシンプルなトリックを入れることを意識して制作した波形のパズル。「ピースとフレームの長さがぴったりと合う部分が多く、間違った組み方をしていることに気づきにくい」と浅香。7本のオレンジ色のピースをフレームのなかで並べ替え、はめていく行為自体に美しさを感じさせます。
一方《WAVE5》は、前作《WAVE7》に比べて構造はよりシンプルに、トリックは複雑にできるかを考えてデザイン。《WAVE7》では形に規則性を持たせませんでしたが、《WAVE5》では段階的にきれいなウェーブを描くようデザインしました。

浅香は大学在学中からレーザーカッターを使い、アクリル板からピースを切り出します。アクリル板を使うことで、多彩な色の美しさや透明感、素材感を生かした浅香のパズルが生まれます。

オレンジ色のアクリルが美しい《WAVE7》2018年/13.6×10.0cm 奥のアクリル画は手前から《APRIL APPLE SONG》2018年、《チェロキー》2020年、《黄色い部屋》2018年

マットな黒いアクリルをシンプルに切り出した《WAVE5》2019年/13.6×10.3cm 2019年「世界パズルデザインコンペティション」で「Top 10 Vote Getters」入りした佳作

黒と赤のコントラストと形が美しい《OLEO10》2019年/13.6×11.6cm