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新たな仕掛けを導き出し、驚きと意外性を生む思考に迫る
「路に落ちてた設計図」
パズル作家として活躍する浅香遊を特集した卒業生シリーズVol.7「路に落ちてた設計図」。本展は在学中の2018年にパズル制作を始めて以来、初となる作品展です。
アメリカ・サンディエゴでおこなわれた「世界パズルコンペティション」にて入賞後、浅香のパズルの仕掛けは驚きをもって受け止められ、世界的に注目を集めてきました。カナダの人気YouTuberが《JIGSAW29》を解く過程を「Solving The HARDEST JIGSAW PUZZLE!! – LEVEL 10!(最も難しいジグソーパズルを解いてみる―レベル 10)」と題して公開した動画は再生回数1,200万回を超えるなど、浅香のパズルは常識を覆すパズルとして高く評価されています。
「人の無意識には、形に対して暗黙の了解やルールがある」と浅香。人間の意識と無意識に着目し、誰もが無意識のうちに決め込んでしまった固定観念を覆す仕掛けを生み出すことで驚きと意外性のあるパズルを設計します。その難解さだけでなく、アクリルを切り出したピースの美しさも魅力のパズル。本展では、2018年から2021年までの3年の間に世に送り出してきた《JIGSAW29》《JIGSAW19》《WAVE7》《WAVE5》《ICE9》《BIRD11》《OLEO10》《JIGSAW16》をアーカイブ。セオリー通りでは決して完成しないパズルをデザインする浅香の脳内の動き、常識にとらわれず新たな仕掛けを導き出す思考に迫りました。
逆転の発想へと導く、アイデアスケッチ
浅香のパズルの原点は、描き続けてきたスケッチにあります。「繰り返し描いていくことで思いがけないパズルが生まれる」と浅香が言うように、ひとつのモチーフに対してさまざまなアイデアを大喜利のように繰り出し、アクリルの裏紙やノートなどにアイデアスケッチを繰り返し描いていきます。「アイデアが出てきたら、それに合わせて作品形態を選んでいく。もともとある設定に対しては、設定自体を変えていく。そんな逆転の発想からつくり出していくのが自分の方法」と話します。
変化していくパターンはエッシャーの版画のようであり、絵であり、言葉であり、色であり、思考の片鱗として展開していきます。また、スケッチの合間に思いついたように綴る「回文」の難解さもまた浅香の特徴です。
人の無意識に共通する「暗黙の了解」や「ルール」を
トリックとして取り入れた《JIGSAW29》
大学3年時に初めて制作した《JIGSAW29》は、通常のジグソーパズルに新しい仕組みを取り入れることを目的にデザインしたもの。もともとのアイデアは、高校生だった2012年に何気なく描いたスケッチにあります。人の無意識に共通する「暗黙の了解」や「ルール」をトリックとして取り入れ、アクリルを切り出して制作した《JIGSAW29》は2018年「世界パズルデザインコンペティション」で入賞し、浅香がパズル作家として歩み始めるきっかけとなりました。
通常のジグソーパズルは、ひとつの絵の画面を凸部と凹部のあるいくつものピースに分解し、凹凸をかみ合わせることで再び組み立てていきます。浅香が考案したジグソーパズルは、凸と凹をかみ合わせるという暗黙のルールを仕掛けとして利用。凹みと凹みの組み合わせや、辺に置くはずのピースを真ん中に、真ん中に置くはずのピースを辺に、角に置くはずのピースを他の場所にと、人間が無意識のうちに決め込んでしまった常識を逆転させました。
《JIGSAW29》の次にデザインした《JIGSAW19》は全てが角のピースで構成されています。ジグソーパズルには通常、4つある角ピースを四方の角に置くという暗黙の了解がありますが、《JIGSAW19》では「それを最初の手掛かりとして解き進めるという手段を封じることに重点を置いた」と浅香。ピースの中から角ピースを手に取り、四方のいずれかの角に置いていく‥‥そんな行為が無意味となる全てが角ピースのパズルには他では決して味わえない面白さ、出来上がりの美しさがあります。これら《JIGSAW29》《JIGSAW19》は、ジグソーパズルでは基本的には存在しない「素数」のピース数でできていることも大きな特徴です。
※《JIGSAW20》《JIGSAW19》は2021年夏、玩具メーカーのハナヤマから「沼パズル」として商品化されました。
シンプルな構造とシンプルなトリックが描く
美しくも複雑な《WAVE7》《WAVE5》
浅香の3作目となった《WAVE7》は、シンプルな構造のなかにシンプルなトリックを入れることを意識して制作した波形のパズル。「ピースとフレームの長さがぴったりと合う部分が多く、間違った組み方をしていることに気づきにくい」と浅香。7本のオレンジ色のピースをフレームのなかで並べ替え、はめていく行為自体に美しさを感じさせます。
一方《WAVE5》は、前作《WAVE7》に比べて構造はよりシンプルに、トリックは複雑にできるかを考えてデザイン。《WAVE7》では形に規則性を持たせませんでしたが、《WAVE5》では段階的にきれいなウェーブを描くようデザインしました。
浅香は大学在学中からレーザーカッターを使い、アクリル板からピースを切り出します。アクリル板を使うことで、多彩な色の美しさや透明感、素材感を生かした浅香のパズルが生まれます。
ジャズが奏でる形を描いた《OLEO10》
《ICE9》はSF小説に着想を得た壮大な物語
黒と赤のデザインが美しい《OLEO10》は、アメリカのジャズ・サックス奏者ソニー・ロリンズが1954年に発表したモダン・ジャズで、スタンダードナンバーとして知られる名曲「OLEO」を題材としたパズル。「OLEO」を聴いて描いたスケッチから形を引用し、《JIGSAW29》の凹凸の仕掛けを応用。分かりやすい構造で、遊びごたえのあるパズルとなるようデザインしたといいます。ジャズの曲調を感じさせる軽やかで不規則な形が、美しいコントラストを生み出します。
浅香自身が「自作のなかで最も難しい」と評するのが、白色のピースが氷を連想させる《ICE9》。見た目は複数の正方形を辺でつなげた多角形の「ポリオミノ」ですが、その見た目からは予想することが難しい答えとなるようデザインした難解パズルです。
モチーフとしたのは、アメリカの作家カート・ヴォネガットのSF小説の名作『猫のゆりかご』。世界を滅ぼすほどの力を持つ氷の結晶体“アイス・ナイン”は、あらゆる液体を凍らせ固体にしてしまう架空の物質です。これをモチーフに浅香が描くのは、生命をも絶滅させてしまう結晶体をめぐる壮大な物語です。
路に落ちてた設計図《BIRD11》
ひとつのフレームのなかに平面的に配置していく敷き詰めパズルと呼ばれるパズルのなかでは珍しく、ピース同士が接しないようデザインしたのが《BIRD11》。道路に落ちていた鳥のフンから、イメージを展開させて制作した特異な形のパズルです。それぞれのフレームに対応するピースを見つける順番によって難易度が変わるため、難しさの感じ方が分かれるパズルでもあります。
この《BIRD11》の構造を応用し、ジグソーパズルのピースでありながら組まないジグソーパズルとしてデザインしたのが《JIGSAW16》です。条件の異なる2種類の凹凸を選別しながらフレームに収める必要があり、《BIRD11》からさらに複雑な構造となりました。
どの形が一番面白いのか、美しいのか
緻密な計算の下で感覚的にピースを選ぶ
ギャラリー最奥の白壁には、《JIGSAW16》の構想段階におけるパソコン上での早見表を全面に展開しました。想定する全てのピースを描いたなかから最終的に正方形に組む条件の下で、16個のピースを選んでいきます。色を付けた部分がフレームであり、このフレームに入るピースのなかからどのピースをはめるのが一番面白いのか、形のばらつきや見た目のかわいらしさなども考慮しながら浅香は感覚的に決定していきます。壁面左側にいくほどフレームに入るピースが多くなり、全面を引いて見ると美しいグラデーションとなるのが分かります。
2018年の《JIGSAW29》に始まった浅香のパズルは平面を分解するものでしたが、2019年以降は次第に立体を意識するようになります。その一端をご覧いただこうと、本展では構想段階の立体パズルに向けたスケッチも展示。円形プレートに刻み込んだ溝をリングが知恵の輪のように行き来する時、どの瞬間が一番面白いのか、どの瞬間が最も心動かされる形になるのかのアイデアスケッチです。その瞬間を中盤としてスタートとゴールを決めていく構想段階のひとこまにも、試行錯誤する過程がうかがえます。
スケッチを描き続けるなかで生まれる、面白い形、美しいデザイン。緻密な計算と感覚的なピース選び。パズルをアーカイブしながら、面白さと難解さ、美しさと緻密さが溶け合った浅香の世界をご覧いただける展覧会です。
撮影:越後谷洋徳
Profile
Information
卒業生シリーズVol.7「路に落ちてた設計図」
展覧会は終了しました
「路に落ちてた設計図」プレスリリース
「路に落ちてた設計図」チラシ(PDF)ダウンロード
「路に落ちてた設計図」作品リスト(PDF)ダウンロード
▼CM https://youtu.be/hvJJppzJrHw
▼アーカイブ映像 https://youtu.be/mkISRx295zM
■会期:2021年10月9日(土)〜10月31日(日) 会期中無休
■会場:秋田公立美術大学サテライトセンター(秋田市中通2-8-1 フォンテAKITA6F)
■時間:10:00〜18:50
■入場:無料
■大型パズル製作:折出裕也
■グラフィックデザイン:越後谷洋徳
■映像:撮影・編集/白田佐輔、音楽/國府田拓郎
■主催:秋田公立美術大学
■企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた
■お問い合わせ:
秋田公立美術大学サテライトセンター(NPO法人アーツセンターあきた)
TEL.018-893-6128 E-mail info@artscenter-akita.jp
※混雑の状況により入場を制限させていただく場合があります。
※新型コロナウイルス感染症感染拡大状況によっては会期や内容を変更する場合があります。