
未来につながるように、
景色や色や匂いが、心のなかに残るように
大きな木をつくろう
田中碧空の作品は、非日常的な深緑の世界で感じた懐かしい気持ちを共有したいと考え、制作した《泡沫の思い出》。
「ふと思い出す、無邪気だった幼少期。見て触れて叩いて、タイムスリップするように昔の自分に出会ってほしい。また、今が未来に繋がるように見えた景色や色や匂いが頭の片隅に、心の中に残る体験になれたらと思う」
彫刻の森の草むらに用意したのは木槌と布。「触って、見つけて、叩いて、おっきな木をつくろう!」と書かれた看板の手順に従って、やわらかな葉っぱを探します。枝を取り付けて「木」に見立てた板に、葉っぱを当てて布を重ね、木槌で叩いて染めます。
森で見つけたさまざまな色や大きさや匂いの葉っぱがたくさんの人の手を借りて、ひとつの大きな木となります。


田中碧空《泡沫の思い出》。彫刻の森に設えられた「木」はそれぞれの思い出とともに葉を付けていく

コロナ禍での行動制限から感じる「不自由さ」を表した杉山明日香《不自由の檻》

「紐で覆われた囲いの中からは広い自然が見えるが、その場から動こうとすると麻紐が邪魔をし、行動が制限される。行きたい場所、やりたいことは先にあるのに制限がかけられて思うようにいかない。コロナ禍で行動が制限されている現代の不自由さを広い自然の中の狭く動きづらい空間で感じ取ってほしい」

池端滴《息づくもの》は森で感じる「何かに囲まれている音、気配」から、静かに棲む動物や自然を神様に例えた。「森に暮らし、自分を見守ってくれるような存在。その偉大さや存在に目を凝らしてほしいという思いで制作」と池端
音がつなぐ、森と人
存在との対話
彫刻の森の杉木立の先にあるのが、ファネス佳乃が木と竹で形作った《音:あなた》。虫籠を大きくしたような不思議な立体物の周囲を一回りしたり、中を覗き見たり。
「一人で過ごす夜が静かすぎて、虫の声や風の音が嫌になることがあります。自然の中で、木で作られた楽器の音を自ら触ることで引き起こしたり、風で音が鳴るのを聴くことが膨大な自然の存在感と、そこにいる自分の存在を受け入れるきっかけになれば、と願いながら作りました」
竹を使ってかすかに鳴らす音は、森のなかでどんな響きを聞かせてくれるでしょうか。

ファネス佳乃《音:あなた》

どんな音が聞こえるかな?
松山空《ミカタの門》は杉木立の中にその姿を現します。ひとつの門が建つことで気配が変化した杉木立。
「この門の表面にはたくさんの成功者たちの新聞の記事が貼られている。門をくぐることで成功者たちの功績を感じてほしい。また実はこの成功者の記事の下側には失敗や苦悩の記事が貼られている。成功の功績によって隠されているが実際には多くの人からは見えないところでたくさんの失敗や苦悩があったはずだ」
新聞に気づいても、気づかなくとも。
そこを歩く人、門をくぐる人は何を思うのでしょうか。

松山空《ミカタの門》
植物が揺らぐ力の方向を
布と糸を使って辿る
彫刻の森の杉木立からグリーン広場へと抜ける小道に揺らいでいるのが、福士真穂《揺らぐ痕跡》。木々に働く力の均衡を追いかけ、福士が布と糸を使って試みたのは植物の佇まいを辿ることでした。
「木々は、重力に従って枝葉を伸ばす方向を決めている。上方や下方に伸びすぎれば枝は折れ、今の姿を保つことはできなくなる。木は常に力の均衡が0になる微妙な点を探りつつ、見えない速度で揺らめき続けている。その地点において重心がどこへ落ちようとしているのか、揺らぐ力の方向を目で見て辿れるものができたと思う」
縫い込んだ布地の裏を見れば、揺らぎを辿る過程や探った行為そのものの痕跡が見てとれます。


福士真穂《揺らぐ痕跡》
森の木々のあいだに
移ろう表情が映り込む
「O」がつくるさまざまな表情のようなもので小道を誘うのが、佐藤若奈《OOO(tie)》。木々に結び付けた輪ゴムは、木々の均衡や風の揺らぎや生物の手によって、あるいは時間の経過とともにその姿を変えていきます。
「雨風や生物などに影響を受け揺れる木々と結ばれることで、輪は変形し動いています。独立した複数の1つが、まとまりを持った1つの形に見え(そのとき複数の1つは消失し)、移ろう表情のようなものを知覚する瞬間があります。その後、以前の状態(複数の1つを見つける目)に戻ろうとする度に、それらが映り込んでくるかもしれません」
木々の間で知覚してしまった表情は、森のなかをどこまでも付いてくる…。
小さな「O」がつくったそんなイメージが、大森山での時間を満たしてくれます。
▼佐藤若奈《OOO(tie)》


見る角度や揺れによって「O」の形や大きさが変わり、表情も移り変わる
森のなかで紡いだことばと作品に出会う「ことばのしるし」は大森山公園グリーン広場周辺にて9月4日(日)まで開催中。全16カ所にある作品は黄色い旗が目印です。
■あそび×まなびのひろば Vol.4 -ことばのしるし-
[1年生]遠藤緋那 瀧澤采未 古谷優々子 松山空
[2年生]池端滴 佐藤雪乃 杉山明日香 田中碧空
[3年生]齋藤涼花 ファネス佳乃 [4年生]木村麟之輔 早坂葉 福士真穂
[大学院生]佐藤若奈 服部正浩 [卒業生]都竹泰河
*監修 村山修二郎[秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻教員]
撮影:草彅 裕


Information
大森山アートプロジェクト2022
「あそび×まなびのひろばVol.4 -ことばのしるし-」
▼「あそび×まなびのひろばVol.4 -ことばのしるし-」ポスター(PDF)
▼「あそび×まなびのひろばVol.4 -ことばのしるし-」リーフレット(PDF)
●会期:2022年7月30日(土)〜9月4日(日) 10:00〜16:00
●場所:大森山公園グリーン広場周辺 ※動物園の第1駐車場を左に見て坂を進むと案内板があります。
●参加自由
※通常、スタッフはおりません。自然に近いエリアなため、無帽、黒い服装や軽装、サンダルなどでは危険です。蜂やけものなどにも十分注意してください。自然物はむやみに取ったり傷つけたりしないでください。小さなお子さまは保護者の方と一緒にお越しください。
●主催:秋田市大森山動物園、秋田公立美術大学
●企画・制作・お問い合わせ:
NPO法人アーツセンターあきた TEL.018-888-8137