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事務局長の旅日記Vol.2 「ひらかれたアートセンターのかたち」

アーツセンターあきたの事務局長が、旅先で広めた見聞を旅日記にまとめる不定期のコラム。第2回目は茨城県水戸市と取手市です。

長引く残暑が嘘のように、一気に冷え込みが増した10月はじめ。とあるシンポジウムに登壇させていただくために上京する機会を捉え、首都圏のアートシーンのリサーチを。

むかった先は、茨城県水戸市の水戸芸術館現代美術センターと、取手市のたいけん美じゅつ場VIVAをはじめとするNPO法人取手アートプロジェクトオフィス(通称:TAP)が運営する幾つかの施設。水戸芸術館現代美術センターは、アーツセンターあきたが指定管理を務める秋田市文化創造館について考える折々に、その取組みを参照させていただいてきました。またTAPは、東京藝術大学取手校地を起点に、藝大と地域をつなぐさまざまなプロジェクトに取組んでおり、当法人とも成り立ちや事業内容が非常に似ている団体とあり、事業情報をフォローさせていただいていました。

SNSで、水戸や取手の新しい情報に接するたびに行きたいなと思いつつ、ここ数年はコロナ禍の影響もあり、なかなか足を向けることができず。さて、満を持しての訪問。今回の旅は、公共交通機関を乗り継いで。

まちにひらき、まちに根差すアートセンター

「水戸芸術館に行くならバスがお得」と以前スタッフが話していたことを思い出し、東京駅八重洲口から高速バスで水戸まで約1時間30分。泉町一丁目で下車して水戸芸術館に足を向けると、何やらすごい人。ちょうど広場で開催していた「あおぞらクラフトいち」の人波をかき分け、お目当ての現代美術ギャラリーへ。

7月22日~10月9日の間に開催されていたのは、水戸市民会館開館記念事業「アートセンターをひらく2023-地域をあそぶ」。

ギャラリー入口のサイン

2019年度に開催された第1弾の「アートセンターをひらく」は、まさに文化創造館の開館に向けて準備を進めていたタイミングで、ひらかれたアートセンターをどのようにつくりあげ、運営されているのかを勉強しようと視察に伺いました。その時は、まだ見ぬ文化創造館の日常をひたすらに想像しながら、頭の中のイメージと照らし合わせつつ、作品の数々を眺めていたことを記憶しています。

2年半の文化創造館の運営経験を踏まえて向き合った今回の「アートセンターをひらく」(第2弾)。開館から2年ほどは運営を安定させることに精いっぱいだったのが、後発のアートセンターとして他とどう差別化をはかっていくかを少しずつ意識するようになった最近。秋田との差異は何か、秋田に足りないものは何かを意識しながら、展覧会を拝見しました。

そういった視点で展覧会を観た時、「市民の参画」、「作品」、「キュレーション」の3つの要素が印象に残りました。
入口を抜けて広がる1つ目の展示室は、「ひらくの間」という創作と交流の場。来場者が本を手に取ったり、用意された材料で創作をしたり、ワークショップができる場として設えられています。展示室には市民ボランティアが常駐し、来場者を心地の良い間合いで空間へと誘ってくれます。お互いに緊張してぎこちない感じになったり、どちらかの圧が強すぎたりすることもない、絶妙な間合いは秀逸。また、第6室で展開される市民による部活動の展示からも、つくることの喜びや、その想いを鑑賞者とも共有することの喜びを感じ、健やかな気持ちになりました。

「ひらくの間」に設けられた展示コーナーには、来場者がつくった作品が展示されていた
部活動の紹介展示。「3人寄ればブカツの提案ができる」というルールが素晴らしい

第2室からは、これまで水戸芸術館が企画した展覧会で制作された数々の作品が展示されています。作品には、制作当時の水戸のまちや人が映り込んでいたり、それらを想起・想像される破片が読み取れ、水戸のまちと作品、さらには制作したアーティストとのつながりが感じられ、地域にひらき存在しつづけるアートセンターの真髄を感じたのでした。

展示室を抜け、1階のミュージアムショップで手にとった図録を読むと、改めてキュレーションの妙にも気づかされます。作品や作家の選定のみならず、研究・学術的に、さらには実社会の中で、時には都市計画や文化政策の中においても、この展覧会(今回の展覧会についていえば、水戸芸術館のこれまでの活動の蓄積)をどう位置づけるかを、検討し、構築し、論じていく。これは秋田の実践においては弱い部分であり、これから時間をかけながら紡いでいく必要があると実感しました。

訪問当日は、水戸クリエイティブウィークの真っ最中。あおぞらクラフトいちの他に、映画祭も開催されており、大にぎわいでした。写真は、共用のエントランス2階に伸びる展示の様子

取手の芝は青いぞー

翌日に向かったのは取手市にあるTAPです。 TAPの取組みの中でも、特に注目しているのが「たいけん美じゅつ場VIVA」(以下、VIVA)というスペースです。その他にも「藝大食堂」や「ヤギの目」といったプロジェクトの数々は、秋田公立美術大学の学食や文化創造館の屋外をつかったプロジェクトの一環としても真似をしたいとウォッチしてきました。

VIVAは、JR取手駅に直結する商業ビル・アトレ取手店の4Fフロアを改装したアートセンターで、取手市、東京藝術大学、JR東日本、アトレの4者の連携により2019年12月にオープンしました。

アトレの他店に出張展示を行った際につくったという看板

アーツセンターあきたが運営を任されている、秋田公立美術大学サテライトセンターは、秋田駅前にある商業施設内のフロアの一角を占め、VIVAと似た立地や状況にあります。サテライトセンターの運営を担って約5年。新しい企画を入れ込み、空間もいじりながら、少しずつ人の流れや動きをつくりだしてきました。一方で、同じフロアに同居する他のテナントや、フロア全体を借り上げている秋田市や秋田県、商業施設の運営事業者との連携や共創はなかなか進んでおらず、まだまだ改善の余地があると感じています。VIVAのように4者が一緒になって場づくりをしている状況は、羨ましくて仕方がありません。

秋田公立美術大学サテライトセンターは、企画展や授業成果展を開催するギャラリーの他、デッサンや素描を学ぶ教室スペース等で構成される

訪問当日。10時の開店を待って、まずはアトレ内を探検。各フロアにどんな店舗が入っているのか、どんな商品が置かれているのか、どんな客層なのかをしばし観察。そしてお目当てのVIVAへ。

エスカレーターをのぼって目の前に広がるのは、「シェアスペース」と呼ばれるスペース。制服を着た男子高校生の1人が「こっち、こっち!」と友人数人を先導し、人工芝が敷かれた緑の島にどかっと座り込みました。パーク内にはテーブルや椅子、ソファもありますが、でこぼことした什器が点在し、そこに寝転んだり、腰かけたりと公園のような雰囲気を生み出しています。

勉強したり、読書したり、ゲームしたり、おしゃべりしたり、思い思いの過ごし方ができる「シェアスペース」

「誰もが思い思いに過ごせる居場所。」一目みて、そんな印象を持ちました。それは、文化創造館が目指す形にも通じています。

スタッフの高木さんの案内で、VIVAの運営の様子や用途が異なるスペースをご案内いただき、ひたすらに羨ましいという思いを塗り重ねていきました。一通りの道具がそろった工作室は、一般の方が有料で利用できるとともに、VIVAの内装や什器を状況に応じて少しずつアップデートしていくためのスタッフの工房としても機能しています。
また、ほぼどの角度からも東京藝大オープンアーカイブが見える空間設計で、日常の延長に作品があること。また、この東京藝大オープンアーカイブには「たいけん美じゅつ研究所」というプログラムが並走し、来場者が作品を対話型により鑑賞する仕組みが整備されています。

ほぼどの場所にいても東京藝大オープンアーカイブが作品が視界に入る
いつでも、だれでも参加できるたいけん美じゅつ研究所

そしてVIVAに欠かせないのが「トリばァ」と呼ばれるアート・コミュニケーターの存在です。彼らが介在することで、人と人、人と作品、VIVAとまちのつながりや活動と情報の広がりを生み出しているのではないかと感じました。

そんなTAPが企画制作する「アートで社会を考えるオンライン講座」で、11月初めに文化創造館の取組みを中心にお話させていただく機会を得ることができました。
アーカイブ動画はこちらから。

Information

今回の旅先

■ 水戸芸術館現代美術ギャラリー
茨城県水戸市五軒町1丁目6-8
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/

■ たいけん美じゅつ場VIVA
茨城県取手市中央町2-5 アトレ取手4階
https://www.viva-toride.com/

■ 取手アートプロジェクト
https://toride-ap.gr.jp/

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた 事務局長

三富章恵

静岡県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。2006年より、独立行政法人国際交流基金に勤務し、東京およびマニラ(フィリピン)において青少年交流や芸術文化交流、日本語教育の普及事業等に従事。
東日本大震災で被災経験をもつ青少年や児童養護施設に暮らす高校生のリーダーシップ研修や奨学事業を行う一般財団法人教育支援グローバル基金での勤務を経て、2018年4月より現職。

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