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事務局長の旅日記Vol.7「興味をもち、面白がる態度」

アーツセンターあきたの事務局長が、旅先で広めた見聞を旅日記にまとめる不定期のコラム。第7回目は青森県八戸市。

一般財団法人地域創造が主催する公立文化施設等の職員を対象とした研修事業のステージラボ。7月には青森県八戸市を会場に開催され、入門コースの1コマで秋田市文化創造館の取組みについて紹介する機会をいただきました。

入門コースのコーディネーターを務める大澤寅雄さん(文化コモンズ研究所 代表・主任研究員)からお話をいただいたときには、「文化創造館の取組みを知って、果たして他の施設の役に立つのだろうか」という疑心暗鬼がありました。私がもつ公立文化施設に対する先入観は、定められたルールに厳格に乗っ取って運営をするというもの。柔軟であること貫こうとする文化創造館とは真逆で、かえって混乱を招くのではという危惧もありました。それ故に、一方的に事例を紹介したところで学びにはならないだろうと思い、しばらく考えた挙句、受講者に文化創造館のスタッフの立場にたって創造館で起こりうる事象に対してどう振舞うかを考えてもらうワークショップにしようと思いつきました。単なる情報のインプットや、成功例として文化創造館を紹介するよりも、その良し悪しの判断は受講者に委ね、判断材料として文化創造館の職員の考え方をトレースするような機会を設けるのが良いと思ったからです。 大澤さんに提案したところ、ロールプレイにすると良いという点と、文化創造館の職員としての立場を想像するだけではなく、自分が働いている施設だったらどうするかについて考えてもらえると良い、という助言をいただきました。

施設の維持管理や貸館を担当する管理チームのスタッフにも意見を出してもらいながら、現在進行形の課題や文化創造館特有と思われる事例の洗い出しに着手。事例について議論をする中で、公立文化施設である文化創造館の判断基準を改めて考えてみた時、「条例や規約の遵守」、「利用者の安全管理」、「創造を抑制しないこと」の3点であることを初めてきちんと言語化して認識できた気がします。そして、それらの特徴をよくあらわす事例を3つ選びだしました。

  • 突発的におこる専有利用(貸館)の取扱い
    文化創造館の施設を専有利用していただくには、施設1週間前までの申請が原則です。施設利用料も発生します。一方で、その場のノリや状況に応じて専有利用に近い活動が突発的に起こることもあり、公平性を担保しつつ、創造を抑制しないという観点から、このような利用に対してどう対応するのかが課題となっています。
  • 参加者・利用者の背中の押し方
    文化創造館のオリジナル企画として定着している「カタルバー」。カタルバーでホストを務めたり、参加したりと、リピーターが増え、ある種の居場所として機能しています。カタルバー以外にも館内には多様な機会があり、そういった機会へのアクセスを積極的に促していきたいと考えています。一方で、参加者・利用者の主体性を重んじたいのが文化創造館。伴走や背中の押し方について頭を悩ませています。
  • 貸館利用の中でおこったトラブルの対応
    昨年秋田公立美術大学の開学10周年を記念する展覧会の会場で起こったハプニング。施設の安全を管理する立場として、また多様な創造活動を応援するミッションをもつ施設の管理者として、このようなハプニングに対する振る舞いは、文化創造館のスタッフが必ずモヤモヤするポイントです。

ロールプレイ方式で進行するために、管理チームの金子もアシスタントとして同行し、会場となった八戸市美術館でいざ発表。驚いたのは、受講者の方がしっかりと文化創造館の特性を捉えて議論を展開していたこと。事例の対処方法の案を金子が提案し、それに賛成・中立・反対のグループに分かれて議論をするという流れで進行しましたが、公平性や創造を抑制しないという判断基準を念頭に、素晴らしい解決策のアイデアを提案する受講者も現れました。その様子はまるで普段の文化創造館の事務室や会議室さながら。当初もっていた、そもそも議論が膨らまないのではないかとの不安は杞憂に終わり、発表終了後には、金子と一緒に「私たちの方が勉強になった!」と興奮気味に感想を述べあったほどです。

ワークショップの概要を説明するスライド

私たちの発表の前後には、いわきアリオス(福島県いわき市)や、八戸ポータルミュージアム八戸市美術館の取組みの紹介があり、それらのセッションもちゃっかり見学させていただきました。いずれも、文化創造館の開館前から一方的に参考にしている憧れの施設。 いわきアリオスは、「アリオスに寄せて」という谷川俊太郎さんの詩を読むたびに痺れているし、八戸ポータルミュージアムは運営方針の見せ方やまちづくりの核としての事業の組み立てに感心し、八戸市美術館は同時期に作成を進めていた運営管理計画や建築設計の優に羨望のまなざしを向けていました。発表を聞きながら、それぞれに共通しているスタンスとして感じたのは、「地域のことに(徹底的に)興味をもつこと」。芸術文化の振興や、まちづくり・地域活性化がお題目としてありながらも、その基盤としてスタッフが地域にことに興味をもって、地域の声に耳を傾けて職務に邁進することが何よりも大切なポイントであることを再確認しました。

開館当時の八戸市美術館(2021年11月筆者撮影)

また、今回八戸市に行く前から、ステージラボや八戸市での学びを広く共有する機会をつくろうと考え、八戸市での学びをテーマにした勉強会「もちつもたれつ」を企画していました。「もちつもたれつ」は、(広義の)アートに関わる人たちが課題や悩み、解決策を共有する勉強会として、今年3月から文化創造館が実験的にはじめているものです。

当日は、私と金子がそれぞれにステージラボや見学した八戸市内の文化施設の様子や気づきを報告した後、集まった方々とざっくばらんに意見交換。八戸市のまちづくりが優れていて「隣の芝が青く見える」という私の発言に対し、参加者の一人から出たコメントが印象的でした。


「まちを見る人が面白がる態度をもっていたら、どのまちであっても存分に楽しめるはず」

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた 事務局長

三富章恵

静岡県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。2006年より、独立行政法人国際交流基金に勤務し、東京およびマニラ(フィリピン)において青少年交流や芸術文化交流、日本語教育の普及事業等に従事。
東日本大震災で被災経験をもつ青少年や児童養護施設に暮らす高校生のリーダーシップ研修や奨学事業を行う一般財団法人教育支援グローバル基金での勤務を経て、2018年4月より現職。

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