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事務局長の旅日記Vol.3 「地方/周縁からの遠吠え」

アーツセンターあきたの事務局長が、旅先で広めた見聞を旅日記にまとめる不定期のコラム。第3回目は神奈川県横浜市と静岡県浜松市です。

最近になって講演のご依頼をいただくことが増えました。秋田での取組みを多くの方に知っていただくこと、講演先に旅行してさまざまな刺激を受けることができ、嬉しく思っています。

今回の旅先は、神奈川県横浜市と静岡県浜松市。
いずれも講演の依頼を受けての訪問です。
奇しくも、2つの講演のテーマは、「周縁の進め方」と「地方圏におけるアートセンターの役割」。周縁と地方。そうだ、秋田は地方で、周縁だった。

日頃、目の前の秋田のことだけを考えていると、秋田が都会に対して地方、中心に対して周縁といった関係性のことを意識することはほとんどなかったように思います。それだけ無我夢中だった。 さて、周縁であり、地方であることに向き合うことが求められた2つの講演会。他の登壇者のお話や質疑応答などを通じて、何を考えたのか。旅日記の第3回をはじめます。

中心と周縁の間でゆれる

神奈川県横浜市へは、黄金町エリアマネジメントセンターが主催する「黄金町秋のバザール Koganecho International Artist’s Network 2023 誰も知らないアーティスト」の一環として開催されたシンポジウム「周縁の進め方」に登壇するために伺いました。

黄金町秋のバザール Koganecho International Artist’s Network 2023 誰も知らないアーティスト
https://koganecho.net/kian-2023/

展覧会には、秋田在住のアーティスト安村卓士さんが出展

シンポジウムのテーマを知ったのは、たしか自宅で朝ごはんを食べながらメールをチェックしていた時のこと(お行儀が悪くてすいません)。それから事務所まで歩いて通勤する途上で、「周縁」と突き付けられたことへの衝撃を噛み締めつつ、悶々と考え込んでしまいました。

その後もしばらく考えを巡らせたのは「周縁とは何か」ということ。国語辞典や英英辞典まで取り出して意味を引いたり、周縁についての論考がまとめられた本を思わずAmazonで注文したり。ぐずぐずと考えても何か突破口が見出せるわけでもなく、「中心や周縁であることの差異を論じることに意義は見出せない」という逃げ道のような思いだけを抱えて、横浜へ。

シンポジウムの登壇者は、山形を拠点に活動するアーティストの後藤拓朗さん、インドネシア・バンドンを拠点に活動するディアン・アルミンティアスさんと、黄金町に滞在中のリサーチャーであるハンター・ディアフィールドさんと私の4名。展覧会のキュレーターを務めた小川希さんをモデレーターに迎えて進行しました。

小川さんからは「田舎か都会か、という議論ではなくて」という前置きをいただきつつ、他の登壇者のプレゼンテーションを聞きながら、引き続き頭の中はグルグルと考えが巡ります。果たしてこのモヤモヤは、地方に暮らす私に内在化された無意識のコンプレックスが発動した卑屈さなのか。いやいや、中心と周縁という二項対立で物事を捉えるのがまずいのではないか、などなど。 ディスカッションを通して自覚したのは、自分が何に・誰に対峙するかによって、立ち位置が中心なのか周縁なのかはゆらぐのではないかということ。さらに、そういったゆらぐ自分自身の立場に意識的でなければ、井の中の蛙になりかねないということでした。そして、必ずしも活動の拠点や活動のジャンルが「周縁的」であったとしても、その内容について優劣はないということも。

秋田の比較優位性

10月29日に鴨江アートセンターで開催されたのは、文化経済学会<日本>と(一社)浜松創造都市協議会の共催による「秋の講演会」。テーマは「地方圏におけるアートセンターの役割」というもので、地方圏のアートセンターの一例として、アーツセンターあきたの活動についてもご紹介する機会をいただきました。登壇者の鴨江アートセンター(浜松市)の澤柳美千子さんからは同センターの事例を、戸舘正史さんからはどまんなかセンター(袋井市)とPAAC平和通りアートセンター(松山市)の事例が紹介されました。いずれも、「すごいなー」「うまいなー」と感心し、共感しながらお話を伺いました。

会場となった鴨江アートセンター

共通項はたくさんありましたが、予算規模、財源、運営体制は異なります。今回事例紹介のあった自治体のうち、規模としては最も小さい秋田市が、実は最も恵まれた状態で運営できているのではと実感する場面が多々ありました。秋田市が「芸術文化の香り高いまちづくりと中心市街地活性化」の推進の施策として、文化創造をキーワードとしていることや、秋田公立美術大学があることは、秋田市が恵まれていると感じる要因の一つ。それらが絵に描いた餅にならないように実践・実証していく役割の一部をアーツセンターあきたが担っているのではないかとも思いました。

ゆさぶる存在

多くの学びがあった横浜と浜松の旅でしたが、秋田に戻ってからも、周縁であること、地方であることについて悶々と考えつづけていました。そんな時に見つけた九州産業大学芸術学部情報デザイン研究室のウェブサイト。「中心と周縁」と題されたテキストには、こんな一節がありました。

「中心」は秩序、「周縁」はそれを動的に再生産する力です。人間社会の中心部は、ともすると惰性化・硬直化する傾向にあります。それをゆさぶり、組み替えを促すのはいつも「周縁的な存在」です。

OpenSquareJP 九州産業大学芸術学部情報デザイン研究室

惰性化・硬直化したものをゆさぶる存在としての周縁。そう捉えると、目の前の霧が晴れていく心持ちになりました。今後アーツセンターあきたが、秋田という地方都市から中心部をゆさぶり、秋田の中でも硬直化したところをゆさぶる震源地になっていければ。

Information

今回の旅先

■ 黄金町エリアマネジメントセンター
〒231-0054 神奈川県横浜市中区黄金町1丁目4
https://koganecho.net/
 
■ 鴨江アートセンター
〒432-8024 静岡県浜松市中区鴨江町1番地
https://kamoeartcenter.org/

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた 事務局長

三富章恵

静岡県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。2006年より、独立行政法人国際交流基金に勤務し、東京およびマニラ(フィリピン)において青少年交流や芸術文化交流、日本語教育の普及事業等に従事。
東日本大震災で被災経験をもつ青少年や児童養護施設に暮らす高校生のリーダーシップ研修や奨学事業を行う一般財団法人教育支援グローバル基金での勤務を経て、2018年4月より現職。

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