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事務局長の旅日記Vol.5「チームワーク」

アーツセンターあきたの事務局長が、旅先で広めた見聞を旅日記にまとめる不定期のコラム。第5回は、約2ヵ月間5回にわたって東京と秋田を往復し、チームワークについて学び・考えた日々について。

事務局長って、どんな仕事する人?と聞かれたことはまだありませんが、3年ほど前から、アーツセンターあきたのビジョン、ミッション、バリューを体現する組織(チーム)をつくり、その基盤となる環境を整え、それを持続可能なものにしていくことが自分の仕事だと自覚するようになりました。まだ上手くできてはいません。

昨年11月頃、夜半にSNSをぼんやりと眺めていると1つの広告が目に留まりました。
その名も「サイボウズのまざる学校」。

サイボウズといえば、理事長の藤浩志が、度々「参考にしてみて」と言及する数少ない会社の一つ。その言葉にほだされて、同社の創業者であり、代表取締役社長の青野慶久著「チームのことだけ、考えた。― サイボウズはどのようにして『100人100通り』の働き方ができる会社になったか」を一昨年末の旅先のお供に携行し、往路の飛行機の中で一気読みしたのでした。アーツセンターあきたをこんな職場にしていきたいと夢想しつつ、「はてさて、どうやって??」と悩みを抱えて時間は過ぎゆくばかり。そんな中で出会ったSNS広告に誘われて、即座に応募しました。

そして忘れた頃に届いた受講案内のメール。 オンライン配信はなく、東京都内の会場での受講が参加の必須条件。時間とお金をどうやりくりしようか考えた挙句、講座当日の午後に新幹線か飛行機で移動し、夜の講座終了後に夜行バスで秋田に戻るという0泊2日の最短最安の旅程を思いつき、「これは自分への投資であり、修行でもある」と腹を括って参加を決めたのでした。

受講を決めた理由は、実はもう1つ。
秋田やアートとは環境を異にする人たちと情報・意見交換をしたかったということがあります。秋田やアート業界ならではの価値観や特有の条件にとらわれずに、最適な働き方や組織づくりを学び、意見を交わし、考えたい。そんな想いをもって飛び込みました。

新幹線で通り抜ける山間部は雪深く
講座を終えて飛び乗った東京駅八重洲口発の夜行バス

「自立とは依存先を増やすこと」と題された講座は、東京大学先端科学技術センター准教授で医師の熊谷晋一郎さんが講師を務められました。全5回を通し、当事者研究の方法論を学びつつ受講生はそれぞれの悩み・課題と人生の系譜をトレースしながら、多様な人材を包含しチームワークが機能する高信頼性組織の実現を考える内容でした。後日サイボウズ式から書籍として発売される予定とのことですので、詳しい講座の内容の紹介は差し控えますが、私自身が抱える課題やその原因と対策について、深く内省する非常に有益な機会でした。講義やワーク、クラスメートとのディスカッションの過程で、常に自分と組織、スタッフのことを振り返り、問いかけ、思考することを繰り返すうちに、組織や自分に起こる状況をこれまで以上に客観視する姿勢が養われたように思います。今までは対峙する状況に直情的に反応していたのが、「なぜそうなるのか」、「なぜそう考えるのか」と、一呼吸おいて考えることができるようになった気も。そして、「なぜ」に目が向き、その問いの答えを探りながら、チームワークを機能させる術を考え始めると、それまではやや鬱々とした気持ちで取組んでいた組織づくりが、少しだけ楽しめるようになってきたような気がしています。


講座のタイトルである「自立とは依存先を増やすこと」は、受講初日以来ずっと頭の片隅でグルグルしているキーワードです。これまで擦りこまれてきたのは「自立することとは、依存しないこと」。これまでの認識と180度異なるこの考え方を、どう自分自身の振る舞いと思考、そして組織の中に実装していくことができるのか。全身に沁みついた傲慢さを自認し、それと向き合いながら、安心して依存する(頼る)ことができるように、もうしばらく修行が必要だと感じる日々です。


余談ですが、大充実・大満足で最終回の講座を終えて秋田に戻ってすぐ、数年ぶりに体調不良で寝込んでしまいました。あれは、きっと知恵熱だったのかもしれません。
仕事に穴をあけてはいけないと気負い続けてきた数年間でしたが、事業は滞りなく進み、私が休んだところで何の影響もないことを確認できました。

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた 事務局長

三富章恵

静岡県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。2006年より、独立行政法人国際交流基金に勤務し、東京およびマニラ(フィリピン)において青少年交流や芸術文化交流、日本語教育の普及事業等に従事。
東日本大震災で被災経験をもつ青少年や児童養護施設に暮らす高校生のリーダーシップ研修や奨学事業を行う一般財団法人教育支援グローバル基金での勤務を経て、2018年4月より現職。

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