蒐集家・油谷満夫の70年以上にわたる蒐集人生をたどりながら、「ものを残すこと」の意味と、その先にあるミュージアムやアーカイブの可能性を考える書籍『蒐集がアートになるとき』を、秋田魁新報社より刊行し、9月30日(水)より秋田県内書店やオンライン書店等での販売を開始します。
著者は、キュレーターであり、民具とアートとアーカイブの研究所(民具ラボ)のメンバーとして油谷満夫の蒐集活動を調査してきた服部浩之。
油谷満夫は1934年、秋田県平鹿郡浅舞町(現・横手市)生まれ。10代で蒐集を始め、農具や民具をはじめ、書籍、印刷物、生活用品など、人々の暮らしに関わるあらゆるものを70年以上にわたり集め続けてきました。その数は50万点以上ともいわれます。
本書では、服部が油谷への度重なる聞き取りや資料調査をもとに、90年を超える人生と蒐集の軌跡をたどります。一方で、これは一人の稀代の蒐集家について記録するだけの本ではありません。いま、全国の博物館や資料館では収蔵庫の逼迫が課題となり、地域に残されてきた民具や生活資料の保存と継承が難しくなっています。何を残し、何を捨てるのか。そもそも、いま価値が見出されていないものを、誰が、どのように未来へ手渡すことができるのか。
油谷満夫の蒐集をひとつの入口として、アート、民具、アーカイブ、そしてミュージアムをめぐる問いをひらいていく一冊です。
2026年7月25日から8月23日まで京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで開催した展覧会「蒐集がアートになるとき」とも呼応しながら、展覧会とは異なる「本」というかたちで、蒐集すること、残すこと、そして未来へ手渡すことを考えます。


書籍『蒐集がアートになるとき』
発売日:2026年9月30日
著者:服部浩之
蒐集・語り:油谷満夫
写真:岩根愛
ブックデザイン・造本設計:吉田勝信(吉勝制作所)
編集:服部浩之、三富章恵(NPO法人アーツセンターあきた)、吉田勝信(吉勝制作所)
制作:NPO法人アーツセンターあきた、民具とアートとアーカイブの研究所(民具ラボ)
発行:株式会社秋田魁新報社
助成:公益財団法人 小笠原敏晶記念財団、公益財団法人 野村財団
定価:3,300円(本体3,000円+税10%)
ISBN:978-4-87020-454-6
秋田県内書店、秋田市文化創造館ショップ〇HAJIMARU、Amazon等でお取り扱いします。
・さきがけブックス
・Amazon
・楽天ブックス
・丸善ジュンク堂 ほか
著者等プロフィール
服部 浩之 Hiroyuki Hattori
キュレーター、愛知県立芸術大学教授、国際芸術センター青森[ACAC]館長。早稲田大学大学院修了(建築学)。国際芸術センター青森などで約10年間アーティスト・イン・レジデンスに従事。フリーランスを経て、秋田公立美術大学や東京藝術大学などで芸術教育に携わる。参加や協働を軸にしたプロジェクトにアジア圏の表現者たちと取り組む。数年にわたる油谷満夫氏への聞き取りを元に、地域とミュージアムの未来を模索している。近年の活動に第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」(2019)、「200年をたがやす」(秋田市文化創造館、2021)、アートサイト名古屋城「あるくみるきくをあじわう」(2024)など。
油谷 満夫 Michio Aburaya
昭和9年、秋田県横手市生まれ。県立大曲農学校卒。昭和25年から民具の収集を始める。昭和54年から13年間、角館町「青柳家」に「民具の館」を開き、「平鹿町農村文化伝承館」の主任に就く。その後、秋田県湯沢市秋の宮温泉郷に秋乃宮博物館を平成4年に開館(平成22年閉館)。平成24年4月「(特活)油谷これくしょん」を設立(令和6年解散)。現在も秋田市を拠点に資料の整理・保存に取り組む。
岩根 愛 Ai Iwane
写真家。フィールドワークをベースに無形文化や自然伝承を紐解いて、写真、映像作品を制作している。写真集『KIPUKA』(青幻舎)にて第44回木村伊兵衛写真賞等受賞。著作に『キプカへの旅』(太田出版)『Coho Come Home』( bookshop M)等。
https://www.aiiwane.com/
吉田 勝信 Katsunobu Yoshida
採集者・デザイナー・プリンター。
吉勝制作所 代表。山形県を拠点に、山野や生産現場から植物や鉱物、産業副産物などを採集し、制作の起点とする。工芸技法と工業技術を横断しながら、素材の性質や成り立ちを手がかりにデザインを行う。代表的な活動に、海や山、産業の現場で採集した素材を顔料へと変換し、印刷や繊維生産といった現代の生産技術へ実装する開発研究「Foraged Colors」がある。趣味はキノコの採集と同定。
https://ysdktnb.com/
10回を超えるインタビューから、蒐集人生をたどる
著者の服部浩之が油谷満夫と出会ったのは、2021年。秋田市文化創造館の開館を記念して開催された展覧会「200年をたがやす」の監修を務め、その準備のなかで油谷にインタビューする機会を得たことが始まりでした。
その後、服部は活動拠点を愛知に移してからも秋田に通い、10回を超える長時間のインタビューを重ねました。毎回、あらかじめテーマを油谷に伝えてから聞き取りを始めるものの、話はしばしばテーマを離れ、ある物との出会いから仕事の記憶へ、地域の歴史へ、そしてまた別の蒐集物へと、縦横無尽に展開していきます。
服部は、インタビュー時のメモや録音、そのテープ起こしを何度も何度も振り返りながら、90年を超える油谷の人生と、70年以上にわたる蒐集活動の軌跡を一冊の本へと編み上げました。

倉庫を巡り、蒐集された「もの」とその風景を写す
写真を手がけたのは、写真家の岩根愛。
岩根は2025年夏に二度にわたり撮影のために秋田を訪れ、油谷が所有する県内各地の倉庫を巡りました。
そこにあるのは、一点ずつ切り離された「資料」だけではありません。長い年月をかけて集められた膨大なものが棚に並び、積み重なり、ときに隙間なく空間を埋め尽くしている。岩根の写真は、蒐集物そのものとともに、それらが現在置かれている場所、そして油谷の蒐集がつくり出してきた風景を記録しています。

「もの」としての本をつくる
ブックデザイン・造本設計を手掛けた吉田勝信は、油谷の蒐集活動と、膨大なものが保管された倉庫の情景に触発され、本書そのものを手触りのある「もの」としてつくることを提案しました。
誌面のデザインにも独自の方法を採用しています。一般的なデザインソフト上でレイアウトを完結させるのではなく、文字や図版を紙に出力し、それらを切り、貼り合わせた「紙版」を制作。その物理的な作業から生まれるずれや重なり、揺らぎを誌面へと取り込んでいます。
整然と分類されるだけではない油谷の蒐集のありようを思わせるように、文字や写真がページのなかで動き、480ページにわたって独特のリズムをつくり出します。

油谷満夫が長い時間をかけて集めてきたものを、服部浩之が「ことば」からたどり、岩根愛が「写真」に収め、吉田勝信が一冊の「もの」へと組み上げる。書籍『蒐集がアートになるとき』は、その内容だけでなく、本を手に取り、ページをめくるという体験そのものから、蒐集すること、ものを残すことについて考える一冊となりました。