大学らしいまちづくりの取り組みにむけて
お掃除の日に参加し、その後も「わたこう」を利用している3組の方々に、利用の経緯や参加した感想など、「わたこう」をめぐるお話をそれぞれうかがいました。
第1回は、大学が「わたこう」を取得した経緯やまちづくりへの考えについて、秋田公立美術大学景観デザイン専攻教授の小杉栄次郎氏のお話をレポートしました。
▼旧渡邉幸四郎邸『第0回 わたこうみんなでお掃除の日』をめぐるレポートvol.1
第2回は、「わたこう」の利用者の視点から、秋田県内地元企業経営者を中心に1982年に設立した悠志会の幹事長加藤薫氏と幹事森川恒氏と、2026年9月28日から、「わたこう」にて展覧会を開催する、秋田公立美術大学助手有志展実行委員会代表の折田千秋氏、それぞれのお話をレポートします。
積み重ねてきた年月に手を入れ、人が集う空間を楽しむ
─悠志会の方々が「わたこう」を利用することになった経緯を教えてください。
森川:毎年開催する悠志会の総会を計画する中、古い建物を使って開催できないかという案が出てきました。そんな時、知人であり、「わたこう」の改修・保全に関わってきた市民団体の新屋サウンド&レコードの方から、秋田公立美術大学が「わたこう」を取得したと聞きました。そこで、利用が可能なのか、問い合わせをしました。
加藤:悠志会は40年以上も続いている異業種交流会で、これまでホテルなどを中心に会合をしてきたのですが、出来合いのものを出してもらうことに、だんだん味気なさを感じていました。どこか面白い会場がないかと探していた時に、森川さんから「わたこう」という場所があると聞きました。文化財級の日本家屋の町家で、色々と工夫しながら自分たちで手を加えて整えることもできるので、いい建物だなと思いました。
―そのようなタイミングで、お掃除の日に参加していただき、当日は中庭の剪定を中心にご協力いただきました。
森川:総会を開催するにあたって、庭の手入れを自分たちでしたいなと思っていました。建物は室内だけではなく、屋外を使うこともあります。たとえば屋外にテーブルを置いたり、あかりを灯したりしながら楽しむことができます。また、庭を創作の場として使おうという意識があれば、自然と外にも目を向けるようになります。建物だけでなく、環境全体の整備も一体的にするからこそ、建物が生きてくると思います。
加藤:地域交流の場でもあるとうかがったので、総会だけでなく、学生や地域の方々にも参加してもらえるように、余興として落語も開催することにしました。自分たちで手入れをしながら、経年の良さを感じられる空間を設えることができ、総会や落語会も無事開催することができました。とても楽しかったです。「わたこう」は建物を活用することができる施設として、今後も利用したいなと思っています。


展覧会を通じて、場を受け継ぎ、場を開く
─助手展を「わたこう」で開催する理由を教えてください。
折田:秋田公立美術大学助手展は、2014年に「RAM2014『Random Access Memories』」として開催されていましたが、その後メンバーが全員入れ替わり、活動も行われていませんでした。私たち助手は、所属する専攻の業務を担っていますが、それぞれの研究や制作活動にも日々取り組んでいます。こうした活動を、学生や教員、地域の方々に向けて共有し、東北地方の文化施設ともつながりながら、広く周知することを目的に実行委員会を発足し、昨年「inFLUX-秋田公立美術大学助手展-」を秋田市文化創造館で開催しました。
昨年の展覧会で出展した助手は、進学や就職を機に秋田へ移住してきましたが、そうした状態を表現する“in flux”をテーマに開催しました。今年は、サイト・スペシフィック、場所に関連づけた展覧会を開催することにし、秋田や新屋や表町にちなんだものを制作してみようという方向に話が進みました。そこで、テーマ性からも「わたこう」が候補になりました。
また、大学が取得してから、試験的に様々な活動が行われていると思いますが、展覧会のような公開を目的とする活動を、大学側から取り組んだほうがいいのではないか、とも思いました。
実は、2014年の助手展は「わたこう」で開催されていました。その歴史を受け継ぎながら、異なる文脈で展覧会ができるのではないかと考えました。こうしたいくつかの要因から、「わたこう」で開催することに決めました。
─そのような企画を構想している中、助手の方々はどのような考えで、お掃除の日に参加されたのでしょうか。
折田:場所に特化した作品を制作するということで、まずは展示会場として把握したいというメンバーは多かったと思います。個人的には、地域の方々にも会えるかもしれないと思っていましたし、実際いろいろな方が参加していたので驚きました。お掃除の日をきっかけに、長年「わたこう」を管理運営し、保存継承活動に取り組んできた元NPO法人新屋参画屋(2024年にNPO法人は解散)の方とも知り合うことができ、後日、お話を聞く会を開くことができました。また、出展作家である有馬寛子氏は、当日お庭の整備をされていた悠志会の方との交流を契機に、庭園を利用した作品を制作することになりました。お掃除の日への参加が、結果的に地域の方々とつながる機会になりました。


─展覧会を開催する上で、目指していることがあれば教えてください。
折田:他大学の助手展は、大学内やホワイトキューブの空間で開催することが多いのですが、秋田の美術大学で働く助手/アーティスト/研究者としての立場から、地方都市ならではのやり方として、地域にある文化財や建物にあわせて作品を制作し、展覧会を開催することで、業界における新たな価値の創出になるのではないかと思っています。
また、まちづくりに取り組む大学として、NPO法人新屋参画屋の解散により途絶えかけた活動を、「わたこう」を拠点に、もう一度つなぎ直せる機会を作れたらいいなと思っています。
さらに、教育に携わる助手として、学生がこの場所をどのように使っていいのか、まだきっかけがつかめないのだろうと思います。展覧会を開催し、活用の幅を提示することで、教育的な効果も望めればと思っています。
展覧会では、展示だけでなく、慶應義塾大学教授の石川初氏と、尾道市立大学教授の小野環氏をお招きして、まちづくりや、地域とアートのことを考えるトークイベントをそれぞれ開催します。また、出展作家の是恒さくら氏が、秋田の浜辺に自生している「ハマニンニク」を使って、籠を編むワークショップを企画しています。こうしたイベントを通じて、学生と地域の人たちの接点が生まれるのではないかと思っています。オフィシャルな企画はこの3つですが、それ以外にも、非公式で、教員と助手との公開ディスカッションをしたり、囲炉裏で熱燗を飲む会を開いたりしながら、地域の人や学生、教員を巻き込めたらいいなと思っています。


レポート:木田歩
Information
旧渡邉幸四郎邸(きゅうわたなべこうしろうてい)
妻入、深い軒、何重にも重ねられた化粧束、通り土間などを特徴とする町家。2024年度に秋田公立美術大学が取得。今後、学生・教員らの制作や発表、地域との交流の拠点としての活用を計画している。
●所在地:秋田市新屋表町5-10
●土 地:950.57㎡
●建 物:木造/亜鉛メッキ鋼板葺き/2階建て
延べ床面積543.52㎡(母屋隣の事務所含む)
●所有者:公立大学法人 秋田公立美術大学
●管理者:NPO法人アーツセンターあきた(2025年秋~)
リーフレット