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秋田公立美術大学サテライトセンター「デッサンスクール」

アーツセンターあきたが施設を運営管理している秋田公立美術大学サテライトセンターでは、デッサンスクールを開催しています。美術系学校への進学を希望する中学生・高校生のデッサン力向上をサポートしています。

Outline


委託者秋田公立美術大学
受託者NPO法人アーツセンターあきた
事業期間2018年〜

アーツセンターあきたの役割

アーツセンターあきたが運営管理する秋田公立美術大学サテライトセンターのデッサンルームを教室として、美術系学校進学希望者を対象としたデッサンスクールを企画、運営。サテライトセンターのスタッフがデッサンスクールの企画から講師との連絡調整、モチーフの準備、受講生対応などの運営をおこないます。

担当スタッフ


静物デッサン、構成デッサンの基礎を学ぶ

秋田公立美術大学サテライトセンターのデッサンスクールは、鉛筆の卓上デッサンを主とした静物デッサン、構成デッサンを学ぶ講座です。秋田公立美術大学附属高等学院の教諭や秋田公立美術大学の教員・助手が講師を務め、各回異なるモチーフを用いてデッサンの基礎に取り組みます。
※秋田公立美術大学サテライトセンター「デッサンスクール」に関する記事はこちらからご覧いただけます。

この日のモチーフは、ワイングラス、ストライプ柄の布、かぼちゃ。与えられた3つのモチーフを自分で再構成して配置します。形や質感、透明感、やわらかさ、存在感など素材の特徴をどう見せたいか。それぞれがじっくり素材と向き合い、集中して鉛筆を走らせます
この日のモチーフは生産者から取り寄せたみずみずしい蕪。立派な葉の付いた蕪をどのように構成して描くのか、それぞれがじっくりと向き合います

デモンストレーション、講評会や質問タイムも

デッサンスクールでは、午前から午後にかけての約5時間、モチーフの形を観察して理解しつつ、質感や存在感を捉えて描き分けていきます。各回、学生デモンストレーターが受講生と一緒に制作するため、受講生はデモンストレーターの途中経過を見たり、話を聞くこともできます。制限時間を設けてデッサンを提出した後は、講師による講評会や質問タイムがあります。モチーフとじっくり向き合い、集中して鉛筆を走らせる緊張感や講師とのコミュニケーションは、デッサン力を鍛えるいい機会になることでしょう。

2023年度は、秋田公立美術大学附属高等学院の教諭、秋田公立美術大学の教員や助手を講師に、7月から1月まで全6回開催しました。秋田公立美術大学サテライトセンターのスタッフは、デッサンのこと、デッサンスクールのこと、心配事等について受講生に対応しながら、デッサンに必要な描写力、集中力、表現力、構成力の向上をサポートしています。

デッサンとは、表現の自由さ、多様さを知る第一歩

秋田公立美術大学美術教育センター助手

日野沙耶 HINO Saya

秋田公立美術大学サテライトセンターのデッサンスクールは、黙々とデッサンに取り組むまじめな受講生さんが多く、説明を熱心に聞いてくださるので、こちらもより真剣に、少ない時間で伝えられることを伝えよう、デッサンに対する見方が少しでも変わってもらえたらという気持ちで取り組んでいます。
私がこれまで担当した回には、デッサンを描くのが初めてという方も何人かおられました。デッサンスクールに参加し、初めて専門的にデッサンに触れてみて、どうでしたか?
私は初めてデッサンを学んだ時、これまでいかに自分が固定観念に縛られていたかに気付かされました。物を面で捉える方法や、鉛筆の芯を最大限に出すことで様々なタッチを表せるようになること…。それまでわずかに芯の出た鉛筆を使い、形を線で描いて、色を塗るように鉛筆をのせることしか知らなかった私にとって、このようなデッサンの表現は新鮮で衝撃的だったことを覚えています。デッサンとは表現の自由さ、多様さを知る第一歩なのではないでしょうか。

さて、何度かデッサンスクールに通われて枚数を重ねた方は、デッサンが辛くなってくることもあるかと思います。受験を意識すると、技術的な面に捉われてしまったり、機械的に描きがちになってしまうことがあります。(自分はそうでしたので…。)振り返ってみると、やはりデッサン一枚にしても一つの作品であり、その一枚を魅力的に描くことが大事であるように思いますし、それが結果的に技術の向上に繋がっていくように思います。

魅力的に描く、ということは、与えられたモチーフに対して、どこか美しさや面白さを見つける必要があります。もしくは構図を考える上でモチーフを組み合わせてみて、面白さに気付くことがあるかもしれません。そこを根幹とするところが始まりです。自分が魅力的に思うところを見せるためには、どのような構成や表現が必要か…ここで技術的な面―構図の取り方、質感の描き分け、光や空間の表現―が重要になってきます。そしてそれらを表現するのは鉛筆となるわけですから、タッチや濃淡、筆圧の加減、粗い或は繊細な描写など、多様な表現を身につける必要があります。その具体的な方法は、ぜひデッサンスクールで講師の方へ質問してみたり、デモンストレーターの方の表現を参考にしてみたり、参考作品を見るなどして、たくさん試して習得していけばよいと思います。
このように、与えられたモチーフから魅力的なところを見つけ、次にそれを表現するための技術を身につけていくというプロセスは、今後の自分の創作にも繋がっていくと思います。創作においてもまず自分が表現したいものを見つけて、そこから材料や手法を選択して作り上げていくからです。デッサンの延長線上には創作があることを意識してみると、一つの作品としてデッサンに向き合えるかもしれません。(2022年〜 秋田公立美術大学サテライトセンター「デッサンスクール」講師)

鉛筆の動かし方やバランスは、上手な人の鉛筆の動かし方を観察しよう

絵描き

堀江侑加 Yuka Horie

美術に興味のある秋田の中高生にとって、デッサンスクールは貴重な機会だと感じています。デッサンにおいて自分と周りの作品とを比べたり、他人から技を盗んだりすることは上達への近道なのですが、残念ながら地域によってはそういった大勢で描ける場が多くありません。そんな中、デッサンスクールでは約20名の受講生がおり、未経験者から受験生まで様々な経験値の人が同じ空間で絵を描くことができるため、互いに大きな刺激になっていることでしょう。受講生の皆さんには試験会場さながらの現場の厳しさと共に、様々な知識や楽しさを学んで欲しいです。

私はこれまで4回ほどデモンストレーターとしてデッサンスクールに関わらせて頂きました。各回違う講師を招いているため、自分も教える立場ではありましたが毎回違う視点での講義を聞くことができて新鮮でした。もちろん、教えてくれる基礎知識はどの講師も共通しています。また、こういった環境で描ける機会が少ないこともあってか、手慣れた感じで時間を過ごしたり、逆に途中で諦めてしまうような受講生が見当たらなかったことには良い印象がありました。

受講生の皆さんにアドバイスをするとすれば、もう少し周りやデモンストレーターさんの途中経過を盗み見ることをおすすめします。私は自分のデッサン力が発展途上だった頃、周りの生徒やデモンストレーターさんの技をガン見して盗み、上手くなりました。しかし私がデモンストレーターを務めた際には、講師に言われない限りほとんど途中経過を見に来る人はおらず(短時間の制作で精一杯という気持ちもわかりますが)とても勿体無いと感じました。せっかくの機会なんだから、デモンストレーターさんに怒られるくらい近くで見ちゃえばいいのに。完成後の参考作品をじっくり見ることも大事ですが、途中の鉛筆の動かし方やバランスなどは途中にしか見ることができませんからね。上手な人がいたら鉛筆の動かし方を観察して盗んで下さい。

それから、もしデッサンが得意ではなかったり嫌いだという人がいたら、デッサンを目標にしないようにして下さい。受験も目標ではありません。デッサンは将来自分がやれることの幅を増やすための基礎能力だと私は思います。イラストでもいいし、立体でもいいし、3Dでもいいのですが、最後に勝つのはデッサンの上手い奴なんです、多分。そのくらいアバウトに考えてもらえれば、今日の目の前のデッサンなんかに悩まずに少しは楽しくできるのではないでしょうか。
(2019〜2022年、秋田公立美術大学サテライトセンター「デッサンスクール」デモンストレーター)

秋田公立美術大学サテライトセンター(フォンテAKITA6F)

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた チーフ

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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