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市街地の新たな使いみち、地元の人たちと探ります「かつての本屋が、高校生の居場所に変わる」(第4回)

近年、都市で増え続ける中心市街地の空き店舗、空きスペース、空き家。能代市から依頼を受け、秋田公立美術大学の教員・助手らが取り組みを始めた空きスペースの再活用に関する実証研究。最終回となる第4回目のレポートをお届けします。

高校生がつくる、自分たちの居場所

中心市街地の空洞化は地方都市の大きな問題です。まだ使用可能な空き家や空き店舗を活かした取り組みができないか。能代の高校生たちとともに、秋田公立美術大学とKUMIKI PROJECTの湊さん、地元企業の関係者、行政が連携して、実証研究に取り組みました。

▼第1回 CLEAN UP KOBUNDOレポート
▼第2回 THINKING KOBUNDOレポート
▼第3回 MAKING KOBUNDOレポート

能代市畠町でかつて本屋を営んでいた「旧鴻文堂」。夏の清掃活動から始まり、1月の床張りを経て、2月9日には防寒のためのタイルカーペット貼りとテーブルの天板を磨き、蛍光灯を変えて、いよいよスペースの実験的オープンに向けて準備が整いました。

手分けしてタイルカーペットを貼りました
テーブルの天板を磨き、フィニッシングオイルを塗り込む作業も

翌2月10日から20日までの11日、毎日15時~20時の間、旧鴻文堂に明かりが灯り、フリースペースとしての試験運用が始まりました。高校の試験期間が重なったため、利用する高校生は限定的でしたが、数時間滞在して試験勉強をしたり、友達とおしゃべりをしたり、本棚に置かれた本を読んだりと思い思いに時間を過ごす姿が見られました。

時には、高校生以外のまちの人たちが外から様子を伺ったり、室内で寛いだり。お菓子や漫画の差入れが持ち込まれることも。

試験的にオープンしたスペースの様子
オープン2日目には、椅子に座って勉強できる形に利用者自ら変更

実証実験を経て、これまでをみんなで振り返る

2月21日には、これまでスペースづくりに関わった高校生を招いて、振り返りを行いました。今後のスペースの設備や運営方法の改良に向けて、さまざまな意見が出されました。

・ このプロジェクトに参加していない子は、なかなか入りにくい。
・ 通っている高校は遠く、家が近くにある子のみ利用していた。
・ 冬は自転車に乗るのが禁止。夏なら自転車を使って行けると思う。
・ グループで勉強するために、ホワイトボードがほしい。
・ だらんとできるクッションやソファがほしい。
・ 大きな鏡があれば、ダンスができるかも。
・ 時計がほしい。
・ トイレがほしい。

高校生から出された意見を踏まえて、今後に向けて、春から秋にかけて使えるスペースとしていった方が良いという方向性や、大きなテーブルではなく小さなテーブルを幾つか制作し、一人での利用やくっつけて大人数でも使用できるように改良していくことなどを関係者で確認しました。

高校生と関係者が集まって、これまでの取り組みを振り返る

なぜ高校生のスペースをつくるのか

中心市街地の空きスペースを活用する取組みとして、今回は高校生を対象にしたスペースづくりを進めた今回のプロジェクト。なぜ、高校生を対象にしたのか。そして、このプロジェクトは他の地域でも応用可能なのか、担当者に聞きました。

-今回のプロジェクトを振り返って

これまでのまちづくりに関するリサーチで、大人向けのスペースはどんどんできていること、高校生のような若年層が気兼ねなく使える場所はほとんどないこと、さらに若年層が新しいスペースを開拓すると、大人が入ってきて彼らの居場所がなくなる事例が多いことは理解していました。

今回の依頼を能代市さんからいただいた際に、秋田公立美術大学の教員・助手と一緒に現地をリサーチして、能代市は高校が多いこと、そして高校生が地域での活動に積極的であるという特徴があることを知り、高校生が自らの居場所をつくるプロジェクトにしていこうという方向性が決まりました。

実際に、8月に高校生から意見を聞いてみると、まちの中に勉強をする場所が少ないという意見や、ファーストフード店やショッピングモールで勉強をするには毎回お金がかかって大変といった意見が出てきました。

高校生の置かれている状況は想定通りだったと思います。さらに計画を立てる段階で、プロジェクトのゴールとして「高校生がスペース作りに参画し、彼らが実験的に使う」ところまではいけるであろうと見通していました。ただ、そのとおりに進めるためには、高校生から出された意見や提案に真摯に向き合って、彼らが実現したいスペースを彼ら自身が思い描くことができるようにゆっくりと進めること。それが今回のプロジェクトのポイントだと度々確認しながら進められていました。「こういう場所が良いのではないか」と、大人が先走って作ってしまわないことが重要だと考えました。

例えば、夏にどんなスペースにしたいかと意見を聞いた時に、「多世代が集まるまちの交流拠点にしたい」と実に真っ当な意見を提案する子がいたんです。今回の振り返りで、同じ子に改めて意見をきいたら、「大人が入ってくると緊張して喋るのをやめてしまう。同世代で使える場所の方がいいな」という意見が出てきました。最初の提案も、真剣に考えて出てきたものだと思うんです。今の高校生は、多世代で交流することが良しとされていることを経験的に知っているから。そうではなくて、高校生の意見を大切にし、彼らが主体性をもてるようワークショップによるスペースづくりを進めることで、彼らの思考が実体験を通して「自分たち自身が何を求めているか」ということに向いてきたことが嬉しかった。

― 今後、他の自治体から「うちでもやれないか」という相談もありそうですが。

全く同じようにやろうと思っても無理だと思っています。その地域の状況にあわせないと。能代の場合は、高校がたくさんある、高校生がたくさんいるという特徴を踏まえてプロジェクトを計画しました。場所のリサーチをして、どう展開できるかというのを一つ一つのケースに応じて考えていくことが必要です。

また、今回は現地に暮らすプロフェッショナルな人たちからの強力なサポートがあったことも重要な要因です。KUMIKI PROJECTの湊さんをはじめとする地元関係者には、家具の制作やスペースづくりに関する指導といったプロとしての関与のみならず、旧鴻文堂の確保から、実証実験中の鍵の開け閉めまで、本当にお世話になりました。

本来であれば、プロとしてのコミットメントに関して、正当に対価をお支払いすべきだとは思うのですが、みなさんのボランティア精神に甘えてしまっている状況です。それは美大の教員・助手に対しても同様の問題で、今後に向けて改善すべき課題だと思っています。

6月に現地調査を実施(右が湊哲一さん)

― 今回の経験を経て、特に印象に残ったことはありましたか

今回のスペースは、実証実験中に自由に携帯電話などの充電ができるように、コンセントを開放していたんです。ところが、利用した高校生たちは、公共施設や商業施設で充電禁止となっていることに慣れきってしまって、このスペースでも充電ができないんだろうと思い込んで全く利用していなかったんです。次回は「充電可!」と大きく貼り紙をしようかなと話していました。

もう一つは、高校生にプロジェクトの参加を募るには先生方の協力が重要だという点です。今回のプロジェクトでは、一つの高校の先生が大変熱心に情報共有に協力をいただいて、ワークショップの度に校内で周知してくださっていたようなんです。振り返りの時に高校生から聞いて、目に見えないけれども、こうやって色んな方に支えていただきながらプロジェクトが進行したんだと実感しました。

Profile

田村 剛

兵庫県生まれ。秋田公立美術大学景観デザイン専攻助手を経て、2018年4月より現職。 まちづくりに関連する事業を主に担当し、秋田市新屋や能代などの地域連携事業の企画・運営に携わる。

Information

能代街なか資源再活用プログラム(第4回)

能代市の中心市街地に増える空き店舗・空き家・空きスペースなどの地域資源の今後の活用の可能性を探ることを目的に、実証実験を通した研究活動を、行政や地域の企業等と連携し実践する。

■主 催:能代市
秋田公立美術大学(小杉栄次郎、井上宗則、萩原千尋、船山哲郎)
■協 力:NPO法人アーツセンターあきた
■参加者:能代高等学校・能代工業高等学校・能代松陽高等学校の生徒有志、
瀬川銘木株式会社、株式会社コシヤマ
■現地協力:KUMIKI PROJECT(湊哲一)
■資材提供:秋田プライウッド株式会社

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた 事務局長

三富章恵

静岡県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。2006年より、独立行政法人国際交流基金に勤務し、東京およびマニラ(フィリピン)において青少年交流や芸術文化交流、日本語教育の普及事業等に従事。
東日本大震災で被災経験をもつ青少年や児童養護施設に暮らす高校生のリーダーシップ研修や奨学事業を行う一般財団法人教育支援グローバル基金での勤務を経て、2018年4月より現職。

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