arts center akita

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《喝采の記憶/未来への命名》2015年、NHK秋田放送局におけるインスタレーション(撮影:高橋希)

調査を重ね、編集して組み上げていく
岩井の表現手法

様々な手法で多文化共生にアプローチする岩井の制作スタイルは、どのようにして生まれ、変化してきたのでしょうか。

「父が高度成長期の出版社に勤めていて、美術書や百科事典を編集していました。その血もあるのか、何事も不器用でうまくいかない自分でも編集系の仕事はなぜか抵抗感なく入り込むことができて。自分の内的な問題と対峙しながらオリジナルをつくり出すよりは、取材したコンテンツから編集して組み上げていくタイプの仕事が多く、それがだんだん自分の作風になったのかもしれません。逆にそこから逃れようとするもう一人の自分もいたりしますが(笑)」

現代社会における目を背けがちな課題を取り上げ、調査を重ねて様々な表現手法で制作する岩井のスタイルは、見る者を社会と改めて対峙させる独自の世界観を形成してきました。

「自分のスタイルというものにはあまり興味がありません。たまたまやれることをアートというカテゴリーに居候させてもらっている感覚に近い。ただ、これまでアートで扱われなかった内容に触れつつも、等身大の世界観で捉えていきたいという思いはあります。若い頃には、他者が手掛けないものにこそ自分の世界観が宿るという気持ちが強かった。でもその傾向は幾分、変わってきたような気もします。年齢を重ねると後ろを振り返って、やり残したことがあったんじゃないか、扱ったテーマや表現は本当にあれでよかったのか、本当はもっと豊かで意義あるものにできたのではないかと、過去に扱ったテーマをもう一度検証する態度に変化してきました。庭園に踏み石があるとすれば、飛び越えてきた石と石の間を振り返り、もうひとつの石を置くべきかと悩むような。それは『過去の検証から未来はつくられる』という自明の理に近いものですが、長い歴史だけでなく、自分史のなかで今それが起きていることが面白いと思います」

《What’s in a name?》2016年、新潟市美術館

岩井が現在、力を注いでいるプロジェクトのひとつが冒頭の「イミグレーション・ミュージアム・東京」。コロナ禍によって岩井が感じているのが「海外ルーツを持つ在留者たちの立ち位置が悪くなっている。というより、悪かったものが顕在化してきた」こと。民族問題をもはらむ、扱いにくい題材を「呑気な顔を装いつつ、しかし真髄について言及するのが僕らのスタンス」という岩井。「彼らの生活に染み込んだ文化、文化から見えてくる生活、そして彼らの置かれている状況・・・それらを今、理解しておくことは重要」と、コロナ以後の新たな世界の構築に目を向けています。

「旅」を通したリサーチによって
地域を問い直す「旅する地域考」

岩井が2018年から統括するプロジェクト「旅する地域考」は、秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科が展開する滞在型のワークショップ・プログラムです。「僕がこの30年近くやってきたことに対して、特に手法としてはこの機会にまとめて伝授できれば」と語るプログラムは、「旅」を通したリサーチやワークショップによって「地域」を問い直す試みです。

「これまで旅を特別意識したことはないのですが、僕自身は世界各地でレジデンスめぐりをしていた時期がありました。ヨーロッパやアジアを転々として、行く先々で情報を集めて次の機会にアプライすることを繰り返して、どうにか食いつないでいたんです。そういう旅の記憶や、地域に裸一貫で入ったときに何が役に立つのか、立たないのか。人と人との付き合いをどうやっていくのか。例えばベルリンなどコスモポリタン的な都市と、辺境の小さくて保守的なコミュニティーに入るのとでは人間の付き合い方が全く違う。地域に入ったらその土地のことを調べ、作品化するにはあえてタブーにも触れなければならないなど、自分の立場を俯瞰しながら土地や人との付き合いが始まる。おべっかも、毒もある。自分は芸の無い旅芸人なのかと思ったこともある。でも、信頼できる人を誰か一人でもつくらないと地域とはつながれない。関係をつくる術、そういうことを短期間に凝縮して考えることができる機会をつくりたい。そのなかで参加者の経験とアートや周辺領域の異なる視点を重ねて考察し、それぞれの次なる旅を企画・提案していく試みです。そのために、身体を移動させながら思考することが、何よりも重要なポイントなのです」

様々な領域のあわい(間)に存在する現代美術をあらためて意識し、「旅と表現」の現在を問う「ARTS & ROUTES -あわいをたどる旅-」。旅を続けてきた岩井の、かたちを持たないリサーチやそのプロセスが展覧会に向けて徐々に姿を見せていきます。

「旅する地域考 辺境を掘る夏編」より(撮影:船橋陽馬)

Profile

岩井成昭(美術家)
1989年東京藝術大学修士課程修了。国内外の特定地域における環境やコミュニティーの調査をもとに多様なメディアで作品を制作し、国際展やAIRを中心に発表。1990年代から多文化状況をテーマに、欧州、豪州、東南アジアにおける調査を進める。2010年からはプロジェクトベースの「イミグレーションミュージアム・東京」を主宰。その一方で拠点を秋田に置き、秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科の新設に参与したほか「辺境芸術」を標榜するなど様々な活動を並行して進めている。秋田公立美術大学教授。

Information

展覧会「ARTS & ROUTES -あわいをたどる旅-」

■プロジェクト:2019年5月始動(現在進行中)
■展覧会:2020年11月28日(土)~2021年3月7日(日)
(※休館日:12月29〜31日、1月13〜22日)
■展覧会会場:秋田県立近代美術館(秋田県横手市赤坂富ケ沢62-46)
http://www.pref.akita.jp/gakusyu/public_html/
■ウェブサイトwww.artscenter-akita.jp/artsroutes
■JOURNAL郵送受付フォーム:https://forms.gle/eGfMMRvuuFrpheWR9
※プロジェクトの経過をたどる「JOURNAL」を定期的に発行しています。郵送をご希望の方は上記よりお申し込みください。

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