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【SPACE LABO 2020】審査員講評を公開

【#秋田市文化創造館プレ事業】
秋田のまちに生まれた「余白」で実現したい企画を公募し、採用された企画を11月1日〜28日の4週間にわたり公開した「SPACE LABO 2020」。審査員の講評や会場担当者のコメントを紹介し、企画をふりかえります。

(撮影:草彅 裕)

審査会で特に印象的だったのは、4会場の担当者のみなさまそれぞれが、企画や企画者と真摯に向き合い、その思いや様子を自身の言葉でお話くださったこと。本記事では審査員の講評に加え、会場担当者のコメントも紹介し「SPACE LABO 2020」をふりかえります。

受賞作品の概要

◆グランプリ

松田朕佳・雨宮澪
「865mm×1578mmの7連サイネージと15m×7.5mのトピコの壁を水に浮かべる」
会場:JR秋田駅 改札上サイネージ・駅ビル「トピコ」壁面プロジェクション

普段なにげなく見ているものの大きさを体感するために、同じサイズで別の素材・用途で置き換えてみると、元となったものの見方も変化するのではないか、という発想から、ビルの壁面やサイネージと同サイズの「筏」を実際につくり、水へ浮かべてみるという試み。地域の方と協力して海に浮かんだ筏は、アニメーションや、口ずさみたくなるような歌声、ピアノや海の音を乗せて、秋田駅前を歩く人々の前に毎日現れた。

 (撮影:草彅 裕)
松田朕佳 現代美術家。2010年アリゾナ大学大学院Fine Arts修了。国内外のレジデンスを経て現在長野県在住。おもに立体造形を制作。
雨宮 澪 ファシリテーター、プロセス&コミュニケーションデザイナー。個人と組織の変容プロセスの伴走者。千葉県在住。

◆審査員特別賞

船山哲郎
「新しい茶の湯のためのスタディ」
会場:秋田オーパ 1F吹き抜け

新型コロナウィルスの感染拡大によって人とのかかわりに制約ができ「新しい生活様式」が示された今、改めて「茶の湯」の作法と空間性を探ることで見出された「新しい茶の湯」の実践。鏡を介して対面し、お手前を受けられる茶室を秋田プライウッドから提供を受けた秋田県産の木材で制作し、裏千家淡交会秋田青年部の協力を受けて一般の方も参加できる茶会を、秋田OPA1階の吹き抜け空間で「野点」として行った。

(協賛:秋田プライウッド株式会社 特別協力:茶道裏千家淡交会秋田青年部)
(撮影:草彅 裕)

船山哲郎 秋田県能代市生まれ。美術家/研究者。建築の分野に軸足を置きながら、周辺環境に対して新たな体験を創出する屋外インスタレーションを主たる表現とし、東北・北海道の過疎地域を中心に作品を展開している。また、映像メディアの空間特性に着目し、自らの空間作品の映像制作を通して、空間を切り取る撮影手法を模索している。

♦︎審査員講評

本事業は、まちの余白を提供してくれる企業との協働が必須でした。最終審査会で伺った協力企業の皆さんのお話からは、作品や表現者と向き合い、理解しようとしてきたことで生まれた各作品への愛着がひしひしと伝わってきました。対して、最終審査に進んだ4組の表現者の方からのお話からは、制作過程や発表中に、協力者やイベント参加者とのやり取りを通して、どうしたら自分の表現を伝え、実現していけるかの葛藤の様子や技術、勘のようなものも垣間見ることができました。
コミュニケーションが無くては企画が実現できないような仕組みが組み込まれた本事業は、まちは誰が作り、誰のものなのかを示すようでもありました。そして、本事業で様々な形で行われたコミュニケーションこそが、文化や芸術を支えるまちを作っていくのだと思います。芸術作品の鑑賞も、作品を介した作者と鑑賞者のコミュニケーションと言えますが、グランプリの松田さん、雨宮さんの来年度の文化創造館での発表でどんなコミュニケーションが起こるのか、期待しています。

金子由紀子(青森公立大学国際芸術センター青森(ACAC) 主任学芸員)

このSPACE LABOのグランプリ受賞者には2021年にオープンする秋田市文化創造館での表現の機会が与えられます。それは、制作にかける時間をよりたくさん持つことになると言い換えることもでき、選考にあたっては、受賞者が時間を多く持った時への期待感を重視しました。
〈グランプリについて〉
グランプリとなった松田さん、雨宮さんの作品は、よくぞここまでまとめあげたものだと感じ入りました。そこは重視していないので、僕が二人にかける期待は別にありました。
今回のプランがしっかりまとまりがついたのは、二人のこれまでの経験と能力に裏付けられた手癖のようなまとめる力の賜物だろうと感じました。しかし、だからこそ、ついしっかりとまとめあがってしまった今回と比べ、手持ちの時間がたくさんできる来年度の発表に向けた制作において、二人がどんな挑戦を設定し、試行錯誤を自分たちから引き出していくのかに関心を持ちました。
今回のプランがアップデートされていく期待値より、時間的に余裕を持つことで何かを立ち上げそうなことまでも含んだ期待を持っています。もちろん今回のご縁や発見からの展開もあり得ますが、もしかすると二人はあらためて秋田と出会い直すことになり、コンセプトも一から立ち上げるかもしれない、ということを思わせてくれました。 追記、そうして欲しいということではありません。
〈審査員特別賞について〉
「新しい茶の湯のためのスタディ」とタイトル付けされていますが、できあがった物は“スタディ”の枠を越えた物で、空間との折り合いも面白味がありました。“スタディ”するための土台がしっかりとつくられていて、後は茶会の回数を重ね試行錯誤するだけ、といった様相でした。
場所に溶け込もうとする空間での収まりや、お点前の中で密をさける手段の鮮やかさが印象的で、ここまで出来上がっているのであれば、今後も試行を繰り返し、活用法や、大事にしたい要素に応じて可変する等、実際の茶人の方々と共に積みあげ、“スタディ”からステップアップするといいなと思いました。

鈴木一郎太((株)大と小とレフ取締役)

今回のSPACE LABOでは、それぞれに性格を異にするまちの余白/空間が舞台となりました。4企画を選出する際にもそれをふまえたわけですが、制作にも関わった立場としては、プロセスもそれぞれに異なった点が印象的でした。
その中でも、松田朕佳・雨宮澪は、短い滞在制作中に次々と協力者を得ながら企画を進める展開力がありました。プロジェクションは、テストや調整に悔いが残ったようですが「屋外の公共空間の風景をささやかに変える」楽しさを提供してくれました。文化創造館という性質の異なる公共空間を舞台に、時間をかけてアプローチすると何が生まれるのかという期待がグランプリを引き寄せたと思います。
船山哲郎は、コロナ禍におけるコンセプトはもちろん、空間の使い方とディティールの作り込みが見事でした。内田聖良は、ABSラジオとの共同制作の要素が強くなり内容が飛躍した面白さがありました。大脇響子・齋藤涼花は、学生の切実な場のあり方が、回を重ねる中で見えてきたのではないかと思います。
結果的に多様な「新しい価値を生み出す実験」ができた手ごたえがありましたが、各企画の価値の比較はし難く、審査は非常に困難であったこともお伝えしておきます。

橋本 誠 (アートプロデューサー、NPO法人アーツセンターあきた ディレクター)

♦︎会場担当者のコメント

会場名:JR秋田駅 改札上サイネージ・駅ビル「トピコ」壁面プロジェクション
(松田朕佳・雨宮澪「865mm×1578mmの7連サイネージと15m×7.5mのトピコの壁を水に浮かべる」)

トピコのプロジェクションは大きく縦長、秋田駅改札口のサイネージは横長と、かなり違ったサイズの映像ですが、2種類それぞれの筏をつくり撮影するという、チャレンジ精神と実現能力を高く評価しています。ロケ地となった男鹿の方々に筏づくり等を協力いただけたのは、おふたりの人柄もあったと思います。

(東日本旅客鉄道株式会社 秋田支社 地域活性化推進室 室長 田口義則様)

アニメーションや口ずさみたくなるメロディを織り交ぜた、親しみやすい映像でした。立ち止まってご覧になる方や、高校生が曲を口ずさみながら歩いて改札に入って行くのを見て、こんなにちゃんと印象に残っているんだな、街にちゃんと溶け込んで、慣れ親しんでもらっているな、と感じました。

(東日本旅客鉄道株式会社 秋田支社 地域活性化推進室 齋藤由紀様)

見慣れた駅の建物が急に違うものになったような感覚があり、我々が気がつかない形で駅という建物の魅力を出していただけた。見ていて非常に嬉しかったです。この後どんな作品をつくっていかれるのか、楽しみです。

(東日本旅客鉄道株式会社 秋田支社 地域活性化推進室 浜崎真侍様)

会場名:秋田オーパ1F吹き抜け
(船山哲郎「新しい茶の湯のためのスタディ」)

昨年は「SPACE LABO」の規模感やクオリティが想像できなかったため、使用予定のない8階の空床を提供しましたが、昨年出展の植村さんが「審査員特別賞」を受賞されたことを受け、今年はより多くの方に観ていただきたいと、1階の吹き抜けを提供しました。
一次審査の際も、当館で出展する意味や必要性、一緒に取り組んで社会的にどんなメッセージを打ち出せるかというところを一番厳しく見させていただきました。
船山さんは、コロナ渦の中でなんでもかんでも制約を受けがちな今において、どうしたらその制約をクリアして表現できるのか、現在の前提を鵜呑みにせず、そこから何を変えたら実現できるのかを、体現されていました。
当社もコロナという制約を受けがちですが、それに流されるのではなくて自分たちでも考えていかないといけないな、という日々の在り方のようなところにも刺激を受けました。
秋田杉を使ったエントランスや1階店舗のグレード感・喧騒にも影響することなく調和できており、テナントからも好評価でした。
「地域との共生」は当社の基本理念のひとつでもあるので、こうした形で体現していけたらと思っています。

(秋田オーパ 営業企画マネジャー 小磯和也様)

会場名:ABSラジオ「まちなかSESSIONエキマイク」番組内企画
(内田聖良「余白書店 公開査定会@ABSラジオ」)

仕掛けが複雑で、ひとつひとつの要素の組み合わせが非常に面白い企画だと最初から感じました。細かいディテールにまでこだわる内田さんのプロデュース力は素晴らしく、その強い思いを「ラジオという展示会場」でどう表現していくか、ABSラジオに何ができるかを考えました。
ラジオは電波によって広く伝えることができますが、展示会場としてはバーチャルな世界ですので、視覚的に見せられるスペースを関連企画として展開し、駅前スタジオから関連企画会場までの空間を、丸ごとラジオ番組の中に持ってこようと発想しました。
番組内のレギュラーコーナーのひとつである「高田レコード」は、当社と同時期に秋田駅前に移転した小さなレコード屋さんです。その店の前に「余白書店」が背負子とやってくるという設定をつくりました。背景音声に駅前の実際の街の音を取り入れるなど、制作側も遊び心満載で楽しみました。
4回の放送で、内田さんの言葉での表現力に幅が出たなと思います。パーソナリティに巻きこまれただけではない、ラジオの世界での表現を発見されたのかなと思います。

(ABS秋田放送ラジオセンター 部長 利部昭勇様)

会場名:フォンテAKITA6F情報発信コーナー
(大脇響子・齋藤涼花「人付き合いの在り方に革新を」)

企画者が県外出身の美大1年生であり、コロナ渦で実行できるのか、はじめは不安に感じていました。
当初の造形プランは防炎対策上設置が難しく、最終的に木枠に障子紙を貼った四角い空間になりました。プランとは違うけれども、外から見てもきれいで、ふたりの目指す落ち着く空間になったと思います。
会場となった場所は、市民が自由に利用できる椅子があり、活動ができる空間でしたが、コロナ渦でそうした利用ができなくなりました。この企画が奇しくも、コロナ渦にありながら人と集い、人と関わり、会話をすることから生まれたというのは良かったなと思います。対象は中高大生でしたが、通りすがりの方が「何をやっているんですか?」と興味津々にスタッフに声をかけるなど他世代にも刺激を与える、とても良い空間になったと思います。
ワークショップでは、自分も若い頃こんなことを考えていたな、だけど気恥ずかしくて人と話し合えないようなテーマを選んでいるところが、とても新鮮で懐かしい気持ちになりました。知らない人同士で話し合った言葉が、彼らの日常生活にどう影響していくのか、興味をもっています。
縁もゆかりもない秋田に来て、コロナで大学にも行けない中、色々な人に助けてもらってこの企画を成功させたところに、彼女たちの成長を感じます。今後にも期待したいです。

(フォンテAKITA 情報発信コーナー担当 皆川 文)

Information

SPACE LABO

2020年度 企画公開[終了]
2019年度 レジデンス賞 受賞者展[終了]

会期:2020年11月1日(日)〜28日(土)
各作家の詳しい公開情報はこちら

リーフレットPDF

主催:秋田市
協力:ABSラジオ、東日本旅客鉄道株式会社 秋田支社、株式会社OPA(2020年度 企画公開)
協力:東北物産株式会社 (2019年度 レジデンス賞 受賞者展)
企画:NPO法人アーツセンターあきた

Writer この記事を書いた人

佐藤春菜

北海道出身。ガイドブック『地球の歩き方』、訪日外国人旅行者向けフリーマガジン『GOOD LUCK TRIP』などを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。青森、宮城、秋田を経て、現在岩手在住。webマガジン『コロカル』(マガジンハウス)、北東北エリアマガジン『rakra』(川口印刷工業)、『d design travel』(D&DEPARTMENT)などに北東北の情報を中心に寄稿中。2020年~2021年、NPO法人アーツセンターあきた・秋田市文化創造館で広報を担当。現在も秋田市文化創造館ウェブサイトで『秋田の人々』を連載している。総合旅行業務取扱管理者。
連載『秋田の人々』(秋田市文化創造館)https://akitacc.jp/news/article/category/people/

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