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NEOびじゅつじゅんびしつ クリエイティブな冒険で挑む「サバイバル生活」

【こどもアートLab2021レポート③】
「NEOびじゅつじゅんびしつ」では、昨年に続きたくさんの「夢」の応募のなかから2つのプロジェクトを採用。集まったメンバーたちは自分たちの力だけでどれだけ頑張って、失敗して、立ち上がって実行したのでしょうか? 今年も数々の挑戦と失敗があった「NEOび」のレポートその1です。

こどもアートLab「NEOびじゅつじゅんびしつ」で
ふたつの「夢」をかなえよう!

秋田公立美術大学が主催する「こどもアートLab」は、こどもたちの自由な発想を引き出す創造のプラットフォームとして2019年度から開催しています。「たくさんの新しい発見とあふれる発想に出会いたい」という思いから、教員や卒業生、秋田県内外で面白い活動をしている人をLabリーダーに迎え、2021年度も幅広い内容で活動しました。

こどもアートLabのひとつ「NEOびじゅつじゅんびしつ」は、夢を叶えるために仲間と一緒に挑戦するプロジェクトです。Labリーダーはアーティストの柚木恵介。神奈川県鎌倉市と長野県上田市を舞台に、これまで子どもたち自らが多様な個性と関わりながらモノやコトをつくり出す活動を展開してきました。
この「NEOびじゅつじゅんびしつ」には大人が与える課題はありません。子どもたちが挑戦する夢が、必ず達成するわけでもありません。スタッフが積極的に手を差し伸べることもありません。あくまでも子どもたち自らが考え、アイデアや工夫で困難を乗り越えていく、そのクリエイティビティを引き出すことを目的としています。
2021年度の「NEOび」はたくさんの「夢」のなかから
プロジェクトA「しぜんのものを使ってサバイバル生活をしたい」
プロジェクトB「みんなでデザインしたお皿で料理を出すレストランの店員になりたい」
この2つに決定してプロジェクトメンバーを募集しました。それぞれのプロジェクトは、どんな展開になったのでしょうか?

初めて会ったメンバーで「サバイバル生活」の作戦会議!

子どもたちが夢の実現に向けて挑戦する「NEOびじゅつじゅんびしつ」の作戦会議は、初めて会う仲間との自己紹介から始まりました。Labリーダーの柚木さんと見守り師たちも意気込み十分!いよいよスタート!

プロジェクトA「しぜんのものを使ってサバイバル生活をしたい」の5人は、メンバーそれぞれがサバイバル体験を発表。タマが持ってきたサバイバル本に「ペットボトルで火がおこせる」と書いてあったので試してみることに。さっそく外へ飛び出しました。

みんなサバイバル本や危険生物図鑑などに夢中
ペットボトルでの火おこしはうまくいかず、白い紙を鉛筆で黒く塗って再度挑戦するも失敗
道具を使ってようやく点きました!

いろいろ試して、最後は道具を使って火おこし成功!幸先のいいスタートです。でも本や動画で知ったことでも、実際にはそう簡単にはいかないことが分かった5人。サバイバル生活の大変さをほんの少し体感できたかもしれません。

火を点けられることを確認した5人は、次は弓矢をつくるために枝探しに向かいました。ここ文化創造館の周辺には木々の枝がたくさん落ちていました。一通り弓矢をつくってから、また本に夢中になった後はお昼ご飯。そしてあっという間に午後の部スタートです。

午後は屋外にて石同士を打ち当てて石器をつくってみたり、駆け回ったり、かくれんぼをしたり…。でもホワイトボードにはしっかり「8/7 下見」の文字がありました。8月7日に予定しているプロジェクトAの作戦会議ではどこかへ下見に行くようです。交通費のことを知りたくて、文化創造館のスタッフに相談しにいきました。

ホワイトボードに「下見」の文字が。しっかりと計画を練りました
初対面ながら一緒に駆け回るメンバー。天気にも恵まれていいスタートを切りました!

作戦会議2日目は、バスに乗って下見へ!

作戦会議2日目は時刻表を確認してみんなでバスに乗って、サバイバル生活をしたい場所に向かうことにしています。「木内前」のバス停から乗ることにした5人ですが・・バスをスルー。時刻表を確認したもののまたスルー。さらにスルー。スタートして1時間、まだ「木内前」のバス停にいます・・。

バスを待つ5人。バスは来ているのですが乗る勇気が・・

ようやく乗車したバスで向かったのは、雄物川の河原! レモホンおすすめの場所に向かって進んでいきます。入念に虫除けをしてから藪のなかに突入! そこには素敵な景色が広がっていました。

まずはシェルターをつくる拠点を決めてから、探検に繰り出します。見つけた実はなんだろう?梅?イチジク?採って割ってにおいを嗅いでみると・・「トマトみたいな変なにおい」とのこと。割ったり、水に浸してふやかしたり、嗅いでみたり。分からないからいろいろなことをしてみます。「知の欲求が爆発していますね」と柚木さん。

お腹が空いていることも忘れていた5人。いろいろ探検したので、シェルターに使える材料がこの場所でほぼ拾えそうなことが分かったようです。よかった!

気持ちのいい風が吹く、いい場所を見つけました
なんの実かな?

無念の延期。そしてオンラインでの作戦会議

2日間の作戦会議を終え、8月28日・29日に実行を予定していた「NEOび」ですが、新型コロナウイルス感染拡大状況を鑑み、残念ながら延期することになりました。9月20日にはオンライン作戦会議を開催。夏休みの間に調べたり、実験したりと、実行日に向けてそれぞれが試行錯誤していたようです。

オンライン会議では実行日に持ってくるものについても話し合いました。魚の餌にするもみがら、仕掛け用に加工したペットボトル、ブルーシート、ナイフ、メタルマッチ、参考書・・・。シェルターをつくったり、魚を捕獲したりと、自分たちの「サバイバル生活」実現のためにしっかり準備して挑むことになりました。

メンバー5人と見守り師たちのオンライン作戦会議

クリエイティブな冒険へ!
「しぜんのものを使ってサバイバル生活をしたい」実行日

10月31日、いよいよプロジェクトA「しぜんのものを使ってサバイバル生活をしたい」の本番スタートです。メンバーは餌らしきものやペットボトルでつくった仕掛けやらいろいろなものを準備してきました。活動場所の雄物川河川敷を目指して出発! しかし作戦会議同様、やはりバスに乗車するのが苦手な子どもたち・・。今回もバスーをスルーし続け、1時間後にようやく乗車。河川敷に出発です!

シェルターづくり開始。できるだけまっすぐな木を探しにいきました。※活動場所は、事前に見守り師(運営スタッフ)が土地所有者へ申請を行い、許可を得て実施しました
地面に突き刺せるかな?

作戦会議で決めていた拠点の「三本松」に到着。早速ブルーシートを広げてシェルターづくりを開始しました。まずは材料を調達。なるべくまっすぐな木を探しに行きます。
材料を集めてシェルターをつくろうとしますが・・地面に突き刺す予定の棒がなかなか刺さりません。でも手元にスコップやハンマーはありません。代わりとなりそうなもので打ち付けたりして、各々が知恵を働かせています。河川敷には雨が降り始めてきました。

お昼ご飯を食べた後は、火おこし係とシェルター係とに分かれて粛々と作業。一方、川では杭で罠を固定して魚を捕る予定が、肝心の杭が折れてしまって断念。罠に魚が入ったら直接引き上げようと粘ったのですが・・。

いい木を見つけましたね
火おこしを始めて1時間、ようやく火が点きました!

自分たちでおこした火で焼いたマシュマロの味は?

実行日2日目もバススルーを繰り返し、いつもとは違う路線のバスに乗車。目的地の「勝平二丁目」ではなく「勝平新橋」で降りてしまい、バスの運転手さんに行き方を聞いて歩いて歩いて・・・。
そんなふうに「サバイバル生活」を地でいくプロジェクトA。ようやく「三本松」にたどり着いて、メンバーも見守り師たちも、ほっ。またシェルターチーム(たま&ゆいと)とファイヤーチーム(れお&レモホン)に分かれ、それぞれこのメンバーでの「サバイバル生活」を楽しみます。風を除けながら火をおこして、マシュマロを焼きました。みんな笑顔!
・冒険する
・火をおこして焼きマシュマロを食べる
・シェルターをつくる
3つの目標は達成できました! そろそろ帰る支度をしますよー。

もうすっかり火おこしには慣れたようです

「今回、子どもたちが挑戦した「サバイバル生活」ですが、思うように火がつかない。罠をしかけても魚はいない。本やネットに書いてあるようなことが、現実ではそう簡単にはいかない。そういうことを身をもって知ったのはとても良い経験をしたように思います。その中で、どう協力して乗り越えていくのか。また、何をもって成功としていくのか。それこそが本当のサバイバルだと、メンバーたちが気付かせてくれました。
石につまずいて転んだからといって、我々大人が石を取り除いてあげるのではなく、できることならば経験を活かして自ら転ばないバランス感覚を養ったり、本人が石に気が付く、転んでも自ら立ち上がる、そんな感覚を冒険しながら育てていって欲しいと願っています。人生の中で、石は無限に転がっているものだから!」(Labリーダー 柚木恵介)

報告会後に、柚木さんを交えて写真撮影

Profile

柚木 恵介

1978年鹿児島生まれ。2019年より秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻准教授。造形作家として活動を続けている。近々の活動は以下の通り。2016年/KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭出品(宮城県)。2014年/表現のチカラ 東京藝大セレクション展ディレクション(香川県高松市)。2014年/日本橋三越夏の芸術祭 ワークショップディレクション(東京)。2014年/小豆島アーティストインレジデンスディレクター(香川県小豆島)。2013年/瀬戸内国際芸術祭出品(香川県小豆島)

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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