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短編アニメーションが描く「現在」と「未来」
アニメーション作品展「Now Playing 2」
秋田公立美術大学は、それぞれの思考、時間、視線を通して描いた学生9人によるアニメーション作品展「Now Playing 2」をサテライトセンターにて開催しました。短編アニメーション作品のほか制作過程の絵コンテや人形なども公開した「Now Playing 2」の全9作品をアーカイブします。
コロナ禍にあって、日々の不安や不確かさ、曖昧さ、心に抱くもどかしさや切なさは学生生活にどう影響しているのでしょうか。学生たちは日々何を考えながら制作を続けているのでしょうか。そんな思いから2021年度に開催したアニメーション作品展「Now Playing」は学生たちの現在「再生中」のいまを問い、「日常」をあらためて見つめ直す試みでした。
2回目となる2022年度は「Now Playing 2」として7月に開催。アニメーションや実写映像、イラストレーション、3DCGなどを制作の軸とする秋田公立美術大学2〜4年の学生9人が出展しました。
心の微妙な揺れ動きや不安感を描いた《ハーバリウム》
心の不安定さや不確かさ、感情の機微をアニメーションで表現する菊地美咲(コミュニケーションデザイン専攻4年)は、女性の微妙な心の揺れ動きを短編アニメーション《ハーバリウム》に描きました。
ハーバリウムとは、ブリザーブドフラワーやドライフラワーを専用オイルに浸け、ガラス瓶などで長期保存する植物標本のこと。生花の美しさとはまた違った趣きが現実から離れた浮遊感や幻想感をもたらします。
アニメーションに登場するのは、日々のささやかな暮らしのなかで病んだ心を「異食」の行為で紛らわせる女性。「幸福と苦痛と孤独を飲み込もうとする彼女は、彼の一時的な感情の表象として存在する花に強く依存している。そうしながら彼女は自分の役割を全うしている」と菊地。
この日々は続くのか、いつか破綻する日を迎えるのか。淡いトーンで描く画面とは裏腹に不穏な空気を感じさせます。
ケチャップのシミを使ったコマ撮りアニメ
オリジナルキャラクターのアニメーションや食べ物を使ったコマ撮りアニメを制作する村田晴加(ビジュアルアーツ専攻4年)は、食卓を舞台にプロジェクションマッピングを展開。ギャラリーに設置した食卓の上でゆるやかに動き出すのは、ケチャップで描いた赤いシミです。
「いつの間にか付いているシミ。あっちにもこっちにも広がっている。もしかしたら、動いているのかもしれない」と村田。トマトを切ってお湯を沸かし、パスタを茹で、フライパンでソースを絡めて仕上げる動きや、食卓にテーブルクロスを敷いて皿を並べて食べる様子をコマ撮りと音で描きます。
昨年の「Now Playing」で村田は円形のスクリーンや窓枠にキャラクターを投影しました。日常のなかに何気なく存在して動く様子や気配が、昨年から今年にかけての1年のなかで少しずつ変化を見せています。
奇妙な生き物の観察記録
同じくオリジナルキャラクターのアニメーション作品《ウサギアタマクラゲ》は、大場明(ビジュアルアーツ専攻4年)の作品。うさぎの耳のような頭部の突起はまるで腕であるかのように動き、透けて見える内臓はあたかもうさぎが泣いているかのように見えます。「この奇妙はクラゲは、何者なのか?」と大場。
水槽の中を行き来したり、崩れて落ち込んだり、分裂したり…。不思議な生命体の観察なのか、あるいは自分自身の心の動きの観察なのか。ひとつひとつの動きに一喜一憂しながら見つめた観察日記でもあります。
実験記録ともいえる《働きと効果のアニメーション》
イラストレーションを表現手段とする三國楓太(2年)の《働きと効果のアニメーション》は、3つの作品。
普段何気なく使っている、日常生活に欠かすことのできないもの。シャワー、ガスコンロ、蛍光灯とスイッチといった日々使用している機器の働きと効果、面白さに注目。つぶさに見つめ、アニメーションとして描いた三國自身の実験記録ともいえる作品です。会場では3画面としてそれぞれのアニメーションを同時に映しました。
赤いレバーを操作することで変わる「軸」
白い展示台から飛び出た赤いレバーが目を引くのは、岡部悠太(ビジュアルアーツ専攻3年)の《axes》。
「axes」とは「軸」のこと。壁面に映し出された白い物体は上下に跳ねる動きを続けるだけですが、レバーを操作することで背景が動き、白い物体の進行方向が変わったように見えます。一方、地面だけに注目すると、変わっていくのは背景の動きだけ。白い物体と背景、そのどちらに主軸を置くかで、見え方、感じ方が変わるアニメーション作品です。
「選択」が「存在」を形作る
安藤陽夏里と安藤帆乃香が共同制作した作品《選択》は、「存在」を問う作品。ひとつひとつの「選択」によって形作られていく「存在」とその曖昧さや不確かさがコマ撮りと3DCGによって描かれます。
「目の前にあるものはすべて、意思のある選択が形を結んだもの。選択することを放棄すれば外界と自己の境界は溶けて薄くなり、次第に無くなってしまう。その時、消えかける自身に気づくことはできるのだろうか。ぼやけた境界を自分の手で描き直すことはできるのだろうか」
日常生活のなかで日々「選択」していく戸惑いを洋服やコップ、バッグなどをコマ撮りして6画面のモニターに映したほか、安藤陽夏里が本作で制作した人形や洋服、絵コンテなども一部公開しました。
3DCGを使った抽象的なアニメーションで捉える
自分の輪郭
《選択》で背景CGを担当した安藤帆乃香は、個人では抽象的なアニメーション《輪郭》を出展。透明で曖昧な何者かが、外部から刺激を受けることによって少しずつ形をなしていきます。
「太陽の光と熱を浴びた時、他者と交差する時、外と内の境目を感じる。外界からの刺激によって自己の存在が保たれるシーンを表現した」と安藤。「外」と「内」の境界、その輪郭を捉えようと試みた作品です。
たまごが、自分探しの旅へ
漫画やアニメーション、楽曲制作などを表現手段とする堀江侑加(ビジュアルアーツ専攻4年)が描くのは、自分自身を探す「たまご」の旅のアニメーション《たまごばなし》。主人公のたまごが自分以外のさまざまな卵たちと出会いながら、自分が何者なのかを探す旅の物語。自作の絵本をもとに、約5分のアニメーションに仕上げました。
出会いの旅を続けた先で見つける「自分」とは? それはハッピーエンドなのか、否か・・。
冬の景色を舞台に自然現象を描く
工藤千輝(コミュニケーションデザイン専攻4年)の《雪》は、厳しくも美しい冬の風景が舞台です。
「雪国で育った自身の経験をもとに描いた作品。雪景色という原風景のなかで自分が抱く寂寥や孤独感を、ハクチョウの生態を通して、動きを重視したモノクロームのアニメーションで表現した」と工藤。
ほんのわずかな時間のなかでも表情を変えて移ろいゆく雪景色と雪そのものの現象を、一羽のハクチョウの動線と共に描いています。
秋田公立美術大学の学生9人が参加したアニメーション作品展「Now Playing2」。ギャラリーにて映し出された全9作品は、アーツセンターあきたのYouTubeチャンネルにて公開しています。
▼「Now Playing 2」(2022)プレイリスト
▼「 Now Playing 」(2021)レポート
撮影:中川 舞
Information
秋田公立美術大学アニメーション作品展 「Now Playing 2」
展覧会は終了しました
▼アニメーション作品展「Now Playing 2」ポスター(PDF)
▼アニメーション作品展「Now Playing 2」プレスリリース
▼「ICAF2022」レポート
■会期:2022年7月2日(土)〜7月24日(日)10:00〜18:30
■会場:秋田公立美術大学サテライトセンター(秋田市中通2-8-1 フォンテAKITA6F)
■出展作家:
大場 明(ビジュアルアーツ専攻4年)、菊地美咲(コミュニケーションデザイン専攻4年)、工藤千輝(コミュニケーションデザイン専攻4年)、堀江侑加(ビジュアルアーツ専攻4年)、村田晴加(ビジュアルアーツ専攻4年)、岡部悠太(ビジュアルアーツ専攻3年)、安藤陽夏里(2年)、安藤帆乃香(2年)、三國楓太(2年)
■メインビジュアル:石前詞美(コミュニケーションデザイン専攻3年)
■撮影・編集:中川舞(ものづくりデザイン専攻4年)
■主催:秋田公立美術大学
■企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた
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