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あそび×まなびのひろば 森で紡いだ「ことば」から、森と人との関係を知る 大森山アートプロジェクトレポート

【大森山アートプロジェクト2022レポート】
秋田市大森山動物園と秋田公立美術大学が取り組む大森山アートプロジェクトが今年も大森山公園一帯で開催中です。グリーン広場や彫刻の森では、森で紡いだ「ことばのしるし」の数々が森の奥へと誘います。

大森山公園で「大森山アートプロジェクト2022」開催中!

秋田市大森山動物園〜あきぎんオモリンの森〜と秋田公立美術大学が取り組む「大森山アートプロジェクト」が2022年度も大森山公園一帯で開催中です。
大森山公園グリーン広場から彫刻の森にかけて展開する「あそび×まなびのひろば」は、遊びのなかで学び、学びのなかから新たな遊びをつくる創造的な広場として2019年に始まり、今年4回目を迎えました。大森山の魅力を掘り起こし、アートを通した発見や遊びをつくることを目的に運営するプロジェクトの今年のテーマは「ことば」です。

あそび×まなびの広場Vol.1〜Vol.3

▼大森山アートプロジェクト2019 大森山公園「彫刻の森」に秘密基地が出現!?
▼大森山アートプロジェクト2020 冒険しに行こう!大森山の「森の居場所」へ
▼大森山アートプロジェクト2021 「鳥の巣画廊」の巣箱をのぞいて、森のなかへ!

大森山公園のグリーン広場から彫刻の森にかけて展開する「あそび×まなびのひろば」へ
「あそび×まなびのひろば -ことばのしるし-」は大森山公園グリーン広場周辺にて9月4日(日)まで。会期初日には学生が案内・解説するオープニングイベントを開催
オープニングイベントでは先着20人に学生お手製の記念品をプレゼント。何が入っていたのかな?

森で紡いだ「ことば」の数々に
森で出会う

「あそび×まなびのひろば」の今年のテーマは「ことば」。コミュニケーションが十分には行えない違和感が続くなか、学生・卒業生の16人それぞれがいま感じていることばを紡ぎ出し、詩、歌、文章などのことばをしるし、森のなかで制作しました。

佐藤雪乃《呼吸の残痕》は木々や足もとの草むらを麻紐で結び、弛ませながらも繋いでいった作品。樹木に取り付けた板には「私たちの生活が変わっても 森は変わらず息をする」のことばがありました。
「私たちが今見ている風景は、この場所に流れる長い時間の中の僅かな一部分でしかない。その時間は森の中で息づくモノたちが歩き、呼吸をし、積み重ねてきた命の営みである。この場所に立った時、私たちの呼吸もまた時間となり森と一つになる。結ばれた紐で現れるのは時間の姿である」

麻紐を使った佐藤雪乃《呼吸の残痕》

齋藤涼花《あ、居る。》は、階段を登って歩いた先の草むらで出会う小さな椅子で紡ぐことば。
「お日様が出ていても、そこは暗い森。夜はもちろん、深く暗い森。耳を澄ましてみて。なかで蠢く生命の音。どこまで続くのかわからない森だけれど、森があればそこにいのちは居る。森から音がするということは、そこに何かが居るということ」

齋藤涼花《あ、居る。》
「そっとすわってください。そして 本をひらいて森をみてごらん」

風の「声」は聞こえるだろうか

グリーン広場に吹き渡る風を受けてたなびくのは、瀧澤采未《風に声》。麻布が大きく動く風は、何かの「声」なのでしょうか。麻布のはためきは「より風を可視化させ、風の『声』を表現したもの」と瀧澤。
「新屋の街に吹き止まないこの風は、巡りめぐって私の故郷にも届くのだろうか。そんな風ともし話せたら、私はみんなが元気か訊きたい」

大きくえぐるような足跡を草むらに刻んだのは、古谷優々子《Be there》。これは誰のものなのか。どこへ行くのだろうか?
「足跡はその時そこに何者かが存在していたという存在証明である。またそれは文字として残ってゆく『ことば』ともどこか共通しているように感じた」と古谷。

この足跡は、なぜここにあるのか。
なぜここにいるのか、なぜここにいたのか…。

森のなかで足跡に出会った人の数だけ、物語が始まります。

瀧澤采未《風に声》
古谷優々子《Be there》
木村麟之輔《森のキノロ》はオープニング日限定のワークショップを開催。ところで「キノロ」とは?
「キノロ」は移動する自作のきのこ型電気炉。稼働時は中にあるコイル状の電線が真っ赤に輝き、800度ほどの高熱を放つ

植物や枝葉を積み重ね、
ことばのちからを吹き込んで

なだらかな傾斜の草むらに、横たわっているかのような身体。あるいは動物の死体のような黒い物体…。服部正浩《コトダマ》は大森山公園で枝や雑草を拾い集め、麻紐を使って形作ったもの。
「ことばにはちからがある。真名(まな)というものをご存知だろうか。古来より呪術や魔術にとって文字やことばは重要なものであるが、西洋では真名を悪魔に知られると魂を支配され、逆に悪魔の真名を知るとそれを自在に操れるという。
私はこの作品に真名を与えた。はたして彼は動いてくれるだろうか」

編み込むように形作られた物体の体内を覗き込むと、文字が書かれた紙が見えます。
何が書かれているのか、どんな魂を吹き込んだのか…。
時間とともにその姿も変化していきます。

服部正浩《コトダマ》
自然環境のなかでの「連歌」が「前後の句だけでなく、ここ大森山のような自然環境にも影響を受けながら一つの大きな連歌をつくっていく」という早坂葉《環境の連歌》
グリーン広場のなだらかな地形にことばが連なる
遠藤緋那《思いを馳せて》

麻布で覆った小さなテントが目を引くのは、遠藤緋那が縄文時代の人々の暮らしを想像して制作した《思いを馳せて》。中にある土器のようなものは、信仰のために使われた縄文土器をイメージしたもの。
「自然との境界が僅かしかなく自然と一つになって暮らしているような感覚を感じることで、自然に対する信仰心が生まれてきたのだと感じさせられます。自然の美しさや神聖さと、縄文時代の人々が自然と共に暮らして生まれた信仰を感じてほしいです」

「かれら」と対話し、交信する
森の木々や人との関係性

藁を編み、水をたたえた小さな溜池を作ったのは都竹泰河《ともに とどく かれらに》。大地に根を張りめぐらすかのように力強くうねる藁は、森や大地とのつながりや関係性を示唆します。
「この場に参与していくために、あらゆる『かれら』との対話・交信を図っていく。私たちは意味を持たないことばが書かれた紙をイメージと共に水に溶かす。藁籠によってつくられた溜池には濾されたグルーヴのようなものだけが充満する。その水は少しずつ大地に溶け出し、『かれら』に届く。
元々ことばだった物たちは空想と現実の間で揺れ動く微細な波として私たちと、木々や水、魚たちなどとの対話を促してくれるだろう」

二次元バーコードで読み取った動画をスマホで見ながら、導かれるように、切り株の上にあるケースを開ける。
くるくると巻かれた1枚の紙を取り出す。
文字を読む。
溜池を覗き込み、その紙を水の中へ。

もともとことばだった物たちは、波となり、
揺れめきとなってやがて消えていく。

ことばをしたためた紙が水に溶けていく。ことばは森に届いただろうか?

未来につながるように、
景色や色や匂いが、心のなかに残るように
大きな木をつくろう

田中碧空の作品は、非日常的な深緑の世界で感じた懐かしい気持ちを共有したいと考え、制作した《泡沫の思い出》。
「ふと思い出す、無邪気だった幼少期。見て触れて叩いて、タイムスリップするように昔の自分に出会ってほしい。また、今が未来に繋がるように見えた景色や色や匂いが頭の片隅に、心の中に残る体験になれたらと思う」

彫刻の森の草むらに用意したのは木槌と布。「触って、見つけて、叩いて、おっきな木をつくろう!」と書かれた看板の手順に従って、やわらかな葉っぱを探します。枝を取り付けて「木」に見立てた板に、葉っぱを当てて布を重ね、木槌で叩いて染めます。

森で見つけたさまざまな色や大きさや匂いの葉っぱがたくさんの人の手を借りて、ひとつの大きな木となります。

田中碧空《泡沫の思い出》。彫刻の森に設えられた「木」はそれぞれの思い出とともに葉を付けていく
コロナ禍での行動制限から感じる「不自由さ」を表した杉山明日香《不自由の檻》
「紐で覆われた囲いの中からは広い自然が見えるが、その場から動こうとすると麻紐が邪魔をし、行動が制限される。行きたい場所、やりたいことは先にあるのに制限がかけられて思うようにいかない。コロナ禍で行動が制限されている現代の不自由さを広い自然の中の狭く動きづらい空間で感じ取ってほしい」
池端滴《息づくもの》は森で感じる「何かに囲まれている音、気配」から、静かに棲む動物や自然を神様に例えた。「森に暮らし、自分を見守ってくれるような存在。その偉大さや存在に目を凝らしてほしいという思いで制作」と池端

音がつなぐ、森と人
存在との対話

彫刻の森の杉木立の先にあるのが、ファネス佳乃が木と竹で形作った《音:あなた》。虫籠を大きくしたような不思議な立体物の周囲を一回りしたり、中を覗き見たり。
「一人で過ごす夜が静かすぎて、虫の声や風の音が嫌になることがあります。自然の中で、木で作られた楽器の音を自ら触ることで引き起こしたり、風で音が鳴るのを聴くことが膨大な自然の存在感と、そこにいる自分の存在を受け入れるきっかけになれば、と願いながら作りました」

竹を使ってかすかに鳴らす音は、森のなかでどんな響きを聞かせてくれるでしょうか。

ファネス佳乃《音:あなた》
どんな音が聞こえるかな?

松山空《ミカタの門》は杉木立の中にその姿を現します。ひとつの門が建つことで気配が変化した杉木立。
「この門の表面にはたくさんの成功者たちの新聞の記事が貼られている。門をくぐることで成功者たちの功績を感じてほしい。また実はこの成功者の記事の下側には失敗や苦悩の記事が貼られている。成功の功績によって隠されているが実際には多くの人からは見えないところでたくさんの失敗や苦悩があったはずだ」

新聞に気づいても、気づかなくとも。
そこを歩く人、門をくぐる人は何を思うのでしょうか。

松山空《ミカタの門》

植物が揺らぐ力の方向を
布と糸を使って辿る

彫刻の森の杉木立からグリーン広場へと抜ける小道に揺らいでいるのが、福士真穂《揺らぐ痕跡》。木々に働く力の均衡を追いかけ、福士が布と糸を使って試みたのは植物の佇まいを辿ることでした。
「木々は、重力に従って枝葉を伸ばす方向を決めている。上方や下方に伸びすぎれば枝は折れ、今の姿を保つことはできなくなる。木は常に力の均衡が0になる微妙な点を探りつつ、見えない速度で揺らめき続けている。その地点において重心がどこへ落ちようとしているのか、揺らぐ力の方向を目で見て辿れるものができたと思う」

縫い込んだ布地の裏を見れば、揺らぎを辿る過程や探った行為そのものの痕跡が見てとれます。

福士真穂《揺らぐ痕跡》

森の木々のあいだに
移ろう表情が映り込む

「O」がつくるさまざまな表情のようなもので小道を誘うのが、佐藤若奈《OOO(tie)》。木々に結び付けた輪ゴムは、木々の均衡や風の揺らぎや生物の手によって、あるいは時間の経過とともにその姿を変えていきます。
「雨風や生物などに影響を受け揺れる木々と結ばれることで、輪は変形し動いています。独立した複数の1つが、まとまりを持った1つの形に見え(そのとき複数の1つは消失し)、移ろう表情のようなものを知覚する瞬間があります。その後、以前の状態(複数の1つを見つける目)に戻ろうとする度に、それらが映り込んでくるかもしれません」

木々の間で知覚してしまった表情は、森のなかをどこまでも付いてくる…。
小さな「O」がつくったそんなイメージが、大森山での時間を満たしてくれます。

▼佐藤若奈《OOO(tie)》

見る角度や揺れによって「O」の形や大きさが変わり、表情も移り変わる

森のなかで紡いだことばと作品に出会う「ことばのしるし」は大森山公園グリーン広場周辺にて9月4日(日)まで開催中。全16カ所にある作品は黄色い旗が目印です。

■あそび×まなびのひろば Vol.4 -ことばのしるし-
[1年生]遠藤緋那 瀧澤采未 古谷優々子 松山空
[2年生]池端滴 佐藤雪乃 杉山明日香 田中碧空
[3年生]齋藤涼花 ファネス佳乃 [4年生]木村麟之輔 早坂葉 福士真穂
[大学院生]佐藤若奈 服部正浩 [卒業生]都竹泰河
*監修 村山修二郎[秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻教員]

撮影:草彅 裕

Information

大森山アートプロジェクト2022
「あそび×まなびのひろばVol.4 -ことばのしるし-」

「あそび×まなびのひろばVol.4 -ことばのしるし-」ポスター(PDF)
「あそび×まなびのひろばVol.4 -ことばのしるし-」リーフレット(PDF)
●会期:2022年7月30日(土)〜9月4日(日) 10:00〜16:00
●場所:大森山公園グリーン広場周辺 ※動物園の第1駐車場を左に見て坂を進むと案内板があります。
●参加自由
※通常、スタッフはおりません。自然に近いエリアなため、無帽、黒い服装や軽装、サンダルなどでは危険です。蜂やけものなどにも十分注意してください。自然物はむやみに取ったり傷つけたりしないでください。小さなお子さまは保護者の方と一緒にお越しください。
●主催:秋田市大森山動物園、秋田公立美術大学
●企画・制作・お問い合わせ:
NPO法人アーツセンターあきた TEL.018-888-8137

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた チーフ

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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