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アニメーションの可能性と未来をひらく 学生アニメーション映画祭「ICAF2022」開催

【レポート】今年20周年を迎えた学生アニメーションの映画祭「インター・カレッジ・アニメーション・フェスティバル(ICAF)」。コロナ禍による2年間のオンライン開催を経て、今年初めて秋田公立美術大学のアニメーション作品が会場で上映されました。

学生アニメーションの最前線
「ICAF2022」

学生アニメーションの最前線に位置づけられるアニメーション映画祭「インター・カレッジ・アニメーション・フェスティバル(ICAF)」が9月29日(木)から10月2日(日)まで、国立新美術館(東京都)で開催されました。全国の大学や専門学校などの教育機関30校で制作された211本のアニメーション作品が、会場で一挙公開されました。https://icaf.info/

2002年に始まった「ICAF」は今年、記念すべき20回目を迎えた学生アニメーション・フェスティバル。全国で制作された作品が一堂に会することで、学生アニメーションの最新クオリティやその先に展開するアニメーションの未来を提示してきました。
これまで歩んできた20年という歴史のなかで、若い大学である秋田公立美術大学は昨年からの参加。この2年間はコロナ禍でオンライン開催だったため、今年初めて3階講堂の大きなスクリーンに秋美の作品が上映されました。

秋美からは アニメーション作品展「Now Playing 2」を経てブラッシュアップされた4作品に2021年度の卒業制作2作品を加え、手法の異なる計6作品が出品されました。

佐藤泉紀《LONELY & 》 2021年度の卒業制作。「私は寂しさを感じる時、同時に別の感情になることがある。そのなかでもネガティブな感情だけではない寂しさを集め、うさぎを主人公にアニメーションで表現。現代を舞台に世界線の違ううさぎたちの寂しいけれどどこか温かいような日常を覗き見て、寂しい以外の感情を見つけてほしい」
高橋鈴奈《同居相手》 自分とそれ以外の生物・非生物との関わり方をテーマに実写映像やアニメーション作品を制作する高橋の卒業制作。「自分のなかにある他者の存在をテーマに制作したアニメーション。自身と他者の曖昧な境界と、互いの関係性に着目し制作。メタモルフォーゼを用いることで、自身と他者をなめらかに接続させている」
堀江侑加《たまごばなし》 自作の絵本をもとにしたアニメーション。主人公の「たまご」が自分以外のさまざまな卵と出会いながら、自分が何者なのかを見つける旅の物語。トレーシングペーパーに描いた絵を木材に透かしてスキャンし、それらを組み合わせて制作
村田晴加《食卓》 自作のキャラクターのアニメーションや食べ物を使ったコマ撮りアニメを制作する村田。「一人暮らしをして自炊をするようになってから、自分の機嫌を取るのに少し凝った料理を作って食べている。しかし、それは時間と心にある程度余裕がないとできない。作品は生活と食事の変化と心の状態を食卓に映し出したものである」
三國楓太《働きと効果のアニメーション》 普段何気なく使っている生活に欠かせないものを題材にした作品。「それらが持っている働きや効果、面白さに着目した、私の実験記録ともいえるアニメーションです」
安藤陽夏里・安藤帆乃香《選択》「目の前にあるものは全て意思のある選択が形を結んだものだ。選択することを放棄すれば、外界と自己の境界は溶けて薄くなり、次第には無くなっていってしまうだろう。その時、消えかける自身に気づくことは出来るのだろうか。ぼやけた境界を自分の手で描き直すことは出来るのだろうか」

他領域の表現を学ぶ過程において、
アニメーションの魅力と可能性に惹きつけられた

秋田公立美術大学では素材や手法を制限することなく、幅広く美術領域を横断する軽やかさを身につけて自分の表現を探求します。
「今年選考した学生たちもアニメーション技法だけ専修してきたわけではなく、他領域の表現を学ぶ過程においてアニメーションの魅力と可能性に惹きつけられて作品が生まれました。このなかには、生まれて初めて制作したアニメーションで参加した学生もいます。ICAFへの参加をきっかけに同世代がつくるさまざまな作品に出会い、学生同士が呼応する形で新しい取り組みや表現が生まれていくことを願っています」(萩原健一)

国立新美術館の講堂で行われた上映時には、堀江侑加、村田晴加(以上ビジュアルアーツ専攻4年)、安藤陽夏里、安藤帆乃香(以上2年)、推薦教員の萩原健一准教授が登壇しました。

学生時代からICAFに注目し、刺激を受けながら楽しんでいたと語る萩原。「秋美は多様な素材や手法に取り組みますが、広く学べる反面、アニメーション制作に専念する時間が少ない。その分を発想力で補って、新しい表現を自分たちで探し出しているのが特色だと思う」
《たまごばなし》の堀江侑加は、もともと絵本としてつくっていた作品をアニメーションに。「見る人によってはハッピーエンドに見えたりバッドエンドに見えたりするらしくて、そこが面白いと思う。私はハッピーエンドだと思う」
ケチャップや醤油、ラー油などの調味料を使って食卓を表した村田晴加。「一人暮らしをしている人の生活と食事と気持ちの変化を表現した」という食卓が大きなスクリーンに映し出された
コマ撮りする人形や魚、洋服などを制作した安藤陽夏里と3DCGを担当した安藤帆乃香。「アニメーションを制作するのは初めてだったのですが、ずっとやりたかったことをたくさん詰め込んで楽しく制作しました」

秋田公立美術大学の6作品が講堂で上映されたこの日は、「ICAF2022」の最終日。全国30校から1作品ずつ集められた選抜プログラムから投票によって上位5作品が観客賞に選出されました。期間中、選抜プログラムやOB、OGのインタビュー「ICAFとらのみち」、「コマ撮り」を指導する教員インタビュー、持ち込み上映「ICAFとらのあな」などもオンライン配信された「ICAF2022」。会場とオンラインで刺激を受け、2023年に向けたスタートの日となりました。

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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