arts center akita

新屋横断歩道橋色彩計画プロジェクト

秋⽥公⽴美術⼤学は秋田地域振興局建設部が実施する秋田天王線「新屋横断歩道橋」(秋田市新屋大川町)の補修業務に協力し、歩道橋に塗装する⾊を地域の⽅と⼀緒に考える⾊彩デザインプロジェクトを実施しました。

Outline


依頼者秋田地域振興局建設部
受託者秋田公立美術大学
事業期間2022年6月〜

秋田公立美術大学担当教員・助手

柚木恵介、中田大介(ものづくりデザイン専攻)

アーツセンターあきたの役割

色決めプロジェクトに参加する地域の方々への協力依頼、日程調整などを担いました。 新屋の地域振興に関わる方から小中学生たちまで計12組、27人の地域住民が参加しました。

担当スタッフ


秋田西中学校入口に位置する1968年竣工の新屋横断歩道橋(秋田市新屋大川町)。利用者の減少や老朽化に伴って解体されて全国的に歩道橋の数が減る中、新屋横断歩道橋は補修を行い、今後も使用されることとなりました。
その理由は近隣の学生や住民の利用が多いこと。隣接する秋田西中学校や、桜の名所とされる新屋大川端帯状近隣公園が近いことから、通学や散策に利用する住民の姿があります。

そんな地域の人々にとって身近なものである新屋歩道橋。補修にあたり、地域の景観に溶け込み、愛着を感じる歩道橋にしようと秋田公立美術大学の「新屋歩道橋色彩計画プロジェクト」が始まりました。
担当したのは、ものづくりデザイン専攻の柚木恵介准教授と中田大介助手です。

<プロジェクトの概要>

・毎月1日正午ごろ、新屋地域の人々と色を選定

・期間は2022年6月から2023年5月までの1年間

・地域の話などを聞きつつ、その時間の「空の色」とカラーサンプルを照らし合わせて同じ色を探す

・地域住民12組(計27人)が参加し、12色を決定

・決定した12色を、歩道橋を12分割して、専門業者が塗装

色選びには地元小学生、中学生、新屋地域を練習拠点とするスポーツチーム、歩道橋近くのお店の方などが参加しました。

夏の青空の下、色を決める子どもたち(2022年8月)
歩道橋の上で、地域の話を聞きながら色決め(2022年10月)
曇り空の日も(2022年7月)
吹雪の中でも(2023年2月)
塗装前の新屋横断歩道橋(2022年6月撮影)

約1年間の塗装を含む補修期間を経て、2024年3月に補修工事が完了した歩道橋がとうとう開通しました。
開通日には、プロジェクトに関わっていただいた人々が集まり、自分が決めた色と空の色を見比べて観賞。最後には記念撮影を行いました。

地域の思いが込められた歩道橋に

秋田地域振興局建設部
保全・環境課 道路保全班 (2022年度当時)

奥山 佳史

美大のそばにある歩道橋ということで、最初に相談したのは2022年の2月ごろです。当時、地域振興局の中でも新しい事を提案しましょうという流れがあり、美大に色のデザインを依頼してみようということになりました。その時は、桜の絵でも描いてもらえればいいかなと思っており、このような歩道橋を12分割して色分けを行うというのは予想していませんでした。
ただ色を塗るのではなく、地域の人、利用する人の思いが込められた、意味のあるものになったと思います。

新屋横断歩道橋には学校などが近いことから利用者があります。ただ、今後歩道橋を必ずしも残さなければいけないかということではありません。次の補修の時期、20年後などに仮に学校がなくなって、横断する人もいなくなるようならば、歩道橋として求められている機能がなくなっているかもしれません。

もし20年後だとしたら、今回関わってもらった小学生や中学生は30、40代。その時は、その時代の地域の方々に、時代に合った別のものに変えるといった議論が起こってもらえるといいと考えています。

地域住民と一緒に考えるアートプロジェクト

秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻准教授

柚木恵介 Keisuke Yunoki

今回のような公共の色彩計画において、1色を厳選して終えることもできる事業を、あえて地域住民と一緒に取組む長期間のアートプロジェクトとして提案した背景には様々な考えがありました。

全国を見ても歩道橋は次々に撤去されていく傾向にあるようですが、今回こうして補修し残す理由を改めて県にヒアリングしたところ、近隣の小中学校の通学路として安全に国道を渡るためのニーズが高いことや地域住民の散歩ルートなどにも活用されている背景があることが分かりました。それともう一つ。公共の変化を見るたびに「街は誰のもの?」という問いがいつも私の頭の中に湧き上がっていたのです。街を作るのは政治家や行政、デザイナーの特権ではなく、願わくは、ここに住む方々やこの街に関わる人々みんなで作るのが理想です。もしかしたら野良猫や桜並木もみんな一緒に街を作るメンバーでありたい。そんな気持ちで街を観察してきました。年齢も職業も全てボーダーレスに、そんなプロジェクトにできないかと考えたのです。

歩道橋に登ってみると新屋の空が広く見えます。太平山と鳥海山が前後ろで望め、桜並木のちょうど中間地点にあります。「ここで毎月、いろんな人たちと空を眺めながら世間話をしたいな。」そう思ったのがキッカケでした。毎月1日の正午に待ち合わせをして、今日の空の色を定点観測しよう。それがこのプロジェクトのルールとなりました。

元々撤去されるほど威圧感のある建造物には違いありません。ですが、空の色になったら景色に溶け込んで見えるかもしれない。そういった狙いもありました。

12ヶ月かけて12組27名の方々にお会いし、ブルーインパルスが飛行した時の話や、若い頃の話、ダンスや野球の話から新屋の歴史の話など、この街と共に過ごした記憶を共有することができました。幸いなことに晴天に恵まれた前半から雨の日や吹雪の中、曇天の色を選んだ日もあります。

今回の改修工事によって、塗装が約20年持つと聞きました。
20年後、私は大学を退職する頃かもしれませんが、このプロジェクトに関わった方々やこの街に関わる人々で再びこの歩道橋をどうするのか。その時代のその環境で、真剣に考えるキッカケにして欲しいです。20年後の未来に向けて、そんな問いを投げておきたいと思います。

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

一覧へ戻る