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にかほ市×秋田公立美術大学協働プロジェクト「ジオカルチャー研究プロジェクト」

秋田公立美術大学はにかほ市との連携協定を機に、「にかほ市リサーチ」を経て「ジオカルチャー研究プロジェクト」を発足。教員・助手・学生に加えアーティストと協働し、異なる専門領域の〈あいだ〉に新しい視点を発見する複数のプロジェクトを展開しています。土地の特性や可能性を見つめ、まだ見えない領域を探り、新たな研究領域をひらきます。

Outline


委託者にかほ市
受託者秋田公立美術大学
事業期間2021年〜

秋田公立美術大学担当教員

萩原健一(秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻)
石倉敏明(秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻)
井上宗則(秋田公立美術大学景観デザイン専攻)
尾花賢一(秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻)

アーツセンターあきたの役割

にかほ市と秋田公立美術大学は2021年、包括的な連携・協力のもと地域社会の発展、人材の育成および芸術文化と産業振興に寄与することを目的として連携協定を締結しました。アーツセンターあきたは連携協定を機に発足した協働プロジェクトのコーディネーターとして、「にかほ市リサーチ」(2021年度)、「ジオカルチャー研究プロジェクト」(2022年度〜)の企画、運営、広報を担当。教員・助手・学生に加え、アーティストとの協働によるプロジェクトの過程は、アーツセンターあきたが制作する研究レポート《手長足長》において公開します。

担当スタッフ


 撮影:伊藤靖史

土地の輪郭を探る共異体
「ジオカルチャー研究プロジェクト」

秋田公立美術大学は2022年、環境としてのジオス(地球)を基盤とする文化現象を「ジオカルチャー」と名づけ、複数の方法論によって人と大地の関係を紐解いていくことを基本構想とする「ジオカルチャー研究プロジェクト」を立ち上げました。ジオカルチャーとは人類学者 石倉敏明が提起したもので、人間と自然を深くつなぐ統一的な生命環境としてのジオス(地球)と、世界の多様な社会集団が培ってきた豊かなカルチャー(文化)をつないで新たな「旅」と「移動」を提供しようとする人類学的研究プロジェクトです。リサーチを開始して以来、プロジェクトでは、地学的・生態学的・人類学的な複数の絡まり合った事象や文化、そのダイナミックで混種的な複数性の共存状況に対し、「ジオカルチャー」の概念によって迫ってきました。現在、異なる専門性を持つ研究者とアーティストの協働によって、「野外アクティビティー領域」「伝統・伝承領域」「地域資源領域」の3つの領域でプロジェクトが進行中です。
ジオカルチャー研究プロジェクトに関する記事はこちらからご覧いただけます。

環鳥海山麓の環境に即した野外アクティビティー
およびフィールドの創出

外寝[そとね]とは「縁側で横になって涼をとる姿」「戸外での昼寝」を指す夏の季語とされます。新しい野外活動(アウトドアアクティビティー)の創出を試みる映像作家/研究者 萩原健一による『にかほでそとね』は、環鳥海山麓のさまざまな環境下で体を横に(仰視、臥像)するように、移動を止めて天体/地面/身体への観察を促していくことで見えてくる体験を探求するプロジェクトです。
2022年度は白雪川上流部での滞在と散策、象潟漁港や赤石浜海水浴場、金浦漁港など海岸線に沿った移動と滞在、中島台レクリエーションの森と冬師湿原では学生たちと共にある特定の時間を過ごしました。活発で精力的な野外活動が印象づける固定概念に対し、美術大学生の発想を抽出することで、これまでとは異なる軸の活動可能性を探ります。アクティブな野外活動とは異なる視点でのアクティビティーに価値を見出し、参加した学生らそれぞれの時間(間暇)の提案と実践をおこなう取り組みを継続中です。

[萩原健一]1978年山形県生まれ。映像作家/研究者。映像メディアを用いた作品制作を行う。2005年文化庁新進芸術家国内研修で山口情報芸術センター[YCAM]滞在後、2007年情報科学芸術大学院大学修了。IAMAS助教、愛知淑徳大学講師を経て、2017年より秋田公立美術大学准教授。近年は企業やプログラマーと協働したメディア教育教材の開発を研究の軸としている。
[嶋津穂高]1979年山梨県生まれ。映像作家/デザイナー。人と環境との関係性のなかに在るものを参与観察やフィールド・サーヴェイの視点から映像表現やデザインとして創作している。武蔵野美術大学映像学科卒業。フリーランス映像ディレクター/デザイナーとしてMV・CM・ショートムービー・アニメーション・テレビ番組等の映像制作・監督を行っている。2009年よりクリエイティブチームMeMeM結成。2010年より「Mountain Meeting」「甲斐国ロングトレイル」等、〈山と街の間〉で人の集まる場の創造や山岳文化・環境を対象とした記録や創作を行っている。2020年より武蔵野美術大学非常勤講師。
[櫻井隆平]1993年群馬県生まれ。2017年多摩美術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。在学時に国立台湾芸術大学留学。彫刻表現を軸に制作を行う。FAB・シェア工房[Makers’Base]勤務後、2019年より秋田公立美術大学助手。主な展覧会として、ART AWARD TOKYO 2015(丸ビル、2015)、個展Revealing(秋田、2021)、SICF23(スパイラル奨励賞/表参道、2012)など。

2022年度は中島台レクリエーションの森や象潟海岸などで時間を過ごした。滞在前と滞在後に俯瞰して写すノーリング(knolling)という撮影スタイルを試みることで、森での過ごし方を探った

鳥海山麓のフィールドワーク
および地域行事のリサーチを通した作品・アーカイブの制作

人類学者 石倉敏明が取り組むのは『野生めぐり にかほ版』です。「野生めぐり」とは、フランスの人類学者 クロード・レヴィ=ストロースによる神話的思考の研究『野生の思考』を踏まえ、近代的な科学技術の知によって飼い慣らされていない人間の無意識の未開拓な領域をアーティストと人類学者による共異的なフィールドワークによって探訪する新たな研究のアプローチです。2022年度は写真家 田附勝氏とコラボレーション、2023年度はそれを踏まえ、異なる媒体を扱うアーティストに秋田公立美術大学の修士・博士課程の学生を加えて鳥海山麓のフィールドワークを継続しておこなっています。調査活動は参加者の専門性に合わせ、歴史・民俗・芸能・風土研究といった多様な視点によって拡張していき、観察や対話、考察の記録を続けます。

[石倉敏明]1974年東京都生まれ。明治大学野生の科学研究所研究員。1997年よりダージリン、シッキム、カトマンドゥ、東北日本各地で聖者や女神信仰、「山の神」神話調査を行う。環太平洋圏の比較神話学に基づき、論考や書籍を発表。近年は秋田を拠点に北東北の文化的ルーツに根ざした芸術表現の可能性を研究する。著書に『Lexicon 現代人類学』(奥野克巳との共著・以文社)、『野生めぐり 列島神話の源流に触れる12の旅』(田附勝との共著・淡交社、2015)、『人と動物の人類学』(共著・春風社)、『タイ・レイ・タイ・リオ紬記』(高木正勝CD附属神話集・エピファニーワークス)など。第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」(2019)、「精神の〈北〉へ Vol.10:かすかな共振をとらえて」(ロヴァニエミ美術館、2019)、「表現の生態系」(アーツ前橋、2019)参加。秋田公立美術大学准教授。
[田附勝]1974年富山県生まれ。写真家。1995年よりフリーランスとして活動を始める。2007年、デコトラとドライバーのポートレートを9年にわたり撮影した写真集『DECOTORA』(リトルモア)を刊行。2006年より東北地方に通い、東北の人・文化・自然と深く交わりながら撮影を続ける。2011年、写真集『東北』(リトルモア)を刊行、同作で第37回木村伊兵衛写真賞を受賞。写真集『その血はまだ赤いのか』(SLANT、2012)、『KURAGARI』(SUPER BOOKS、2013)、『「おわり。」』(SUPER BOOKS、2014)、『魚人』(T&M Projects、2015)など。
[尾花賢一]1981年群馬県生まれ。人々の営みや、伝承、土地の風景や歴史から生成したドローイングや彫刻を制作。虚構と現実を往来しながら物語を体感していく作品を探求している。主な展覧会に「200年をたがやす」(秋田市文化創造館、2021)、「奥能登国際芸術祭2020+」(石川県、2021)、「VOCA2021」(上野の森美術館、2021)、「表現の生態系」(アーツ前橋、2019)、「あいち2022」(愛知県、2022)など。2021年、VOCA賞受賞。秋田公立美術大学助教。
[大東忍]1993年愛知県生まれ。現代美術家/盆踊り愛好家。2019年愛知県立芸術大学美術研究科博士前期課程修了。営みや記憶の痕跡がはびこる風景に関心を持ち、痕跡を読み取るために踊りを踊るなどの思索を重ねながら、木炭画を中心とした作品制作を行う。主な展覧会に「第1回 MIMOCA EYE /ミモカアイ」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2022)、「SUMMER2022 The First Gathering」(秋田市文化創造館、2022)、「Diffusion of Nature 「自然」を巡る視点」(the 5th Floor, HB.nezu、2022)など。2022年「第1回 MIMOCA EYE /ミモカアイ」高嶺格賞受賞、2024年VOCA賞受賞。秋田公立美術大学大学院助手。

石名坂のアマノハギ(撮影:石倉敏明)
鳥海山麓野生めぐり「かなかぶと焼畑の思想」より(撮影:石倉敏明)

平沢・金浦地域を中心とした流れ山の
地域資源化に向けた調査研究およびイベントの開催

鳥海山の山体崩壊で生じた岩屑なだれによって形成された「流れ山」に着目する井上宗則の『流れ山の地域資源化に向けた基礎的研究』は、「九十九島」と呼ばれる観光名所となっている象潟地区に比べ、仁賀保地区、金浦地区では流れ山の存在が十分に知られていないことから始まったプロジェクトです。
50年前に発刊された『仁賀保町史』(1972年)には、仁賀保地区の流れ山は象潟と「内在する美的要素」は同等であり、「観光資源として有効な開発の日が待たれる」と記されていますが、目立った「有効な開発」は行われてきませんでした。そこで本研究では各地域を特徴づける景観要素として流れ山を評価し、新たな地域資源として位置づけることを目的としています。現地調査・分析に加え、仁賀保地区と金浦地区にてトークとまち歩きのイベントを開催し、流れ山が各地域を特徴づける景観要素であり、新たな地域資源であることを提示。また、試行的に作成した「流れ山カード」など散策を促進するツールの検討や、流れ山を活用したレクリエーションの可能性、流れ山の利活用を考えるプログラムを検討・実施。加えて、地形の「保存概念」の成立と変遷を考察し、流れ山を地域資源として位置づける理論的背景の構築を進めています。

[井上宗則]1980年鹿児島県生まれ。九州芸術工科大学卒業。九州大学大学院博士前期課程修了。東北大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。東北大学助教、秋田公立美術大学助教を経て、2021年より准教授。専門は建築・歴史意匠。民間企業において携わった東日本大震災の復興計画等の実務経験を踏まえ、近年は国内外の集落デザインに関する研究を行っている。また、参加型のデザイン手法の在り方を模索しており、サイン、建築、公園、散策路等の様々な実践的な活動を行っている。
[石田駿太]1997年岐阜県生まれ。情報科学芸術大学院大学メディア表現研究科博士前期課程修了。「よい/わるい」と「善/悪」の関係、行為の形相と行為の動力因の関係を研究、またそれらを概念的に把握するための思考モデルを制作している。研究者・表現者の道を歩み出しつつ、個人としては音や身体の動きに反応する照明制御や映像表現などのインタラクティブで実験的なクラブイベントを企画し、表現の拡張を目指した活動に取り組んでいる。秋田公立美術大学助手。

鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会の協力で仁賀保地区、金浦地区で「いっぽ にほ にかほ ながれ散歩」を開催(撮影:伊藤靖史)

日常生活に根づき、残されている「流れ山」にて

秋田公立美術大学景観デザイン専攻

石戸凜、友杉悠葉、長谷川由美 Rin Ishito, Yuha Tomosugi, Yumi Hasegawa

石戸凛「もともとはまちづくりに興味があり、流れ山プロジェクトには2022年度の調査開始当初から参加してきました。にかほ市に来て印象的だったのは、風の強さと海の近さ、木の倒れ方。大学のある秋田市の新屋地区とどことなく似ているところもあるけれど、ここは本当に暮らしのそばに海があって、漁がありました。流れ山のフィールドワークでは、見知らぬ学生があちこち歩いている姿を地域の人はどう思うのだろう?と不安だったのですが、そんなことは全くなく、親しみを持って接してもらえたのが嬉しかったです。象潟のような観光資源ではないけれど、身近にあるこの流れ山はその使われ方も含めて豊かな資源として注目してもらえたら嬉しいです。
私はARの研究をしていて、その中でも『記憶』を題材としています。『歴史』と『記憶』は違っていて、『記憶』には『歴史』の中からは排除されたひとりひとりの口から聞くことのできる思いや痕跡があります。にかほ市をフィールドワークすることによって、自分の研究の核になるものを見つけることができたと思います」

平沢地区と金浦地区の流れ山を対象としたフィールドワークにて

友杉悠葉「流れ山プロジェクトに参加したきっかけは、大学の課題で人とのつながりやコミュニケーションについて学んだことでした。2022年度からシンポジウムとまち歩きイベントの企画・運営をして、にかほ市だけでなく他の地域の方にもたくさん参加していただいていることに驚いています。仁賀保や金浦の流れ山は象潟より目立たない存在ですが、日常的でとても身近で、生活に根ざして残されているのがすごいところ。流れ山の使われ方を見ると、日常生活の一部であり外部と共有される場でもあります。近すぎるわけでも遠すぎるわけでもない、独自のコミュニティーや関係性が築かれているんだと感じています」

長谷川由美「私は“まち”における人と景観とのつながりを研究するため、フィールドワークをメインに活動しています。湯沢市の出身ですが地元について知らないことが多く、にかほ市にこんなに魅力的な地形があることを知らずにいました。井上先生のプロジェクトに参加してみて、自分が思っていた秋田の景観との違いを感じています。にかほでは、田んぼや畑が広がるだけでなくそのなかにポツン、ボツボツと山があります。その異質感に、田園風景に抱いていたイメージを覆されました。流れ山に沿って道路が計画されていたり、意識せずに残されていたりということにも面白さを感じています」

にかほの日常生活、日常の風景に溶け込んでいる流れ山それぞれの利用形態について分析・考察を行っ研究成果は「秋田県にかほ市における『流れ山』の利用形態に関する研究」として日本造園学会東北支部大会にて発表。登壇者は長谷川由美さん(2022年10月)
日本造園学会東北支部大会にて。左から、井上宗則准教授、石戸凛、長谷川由美、友杉悠葉、藤原すもも、コーディネーターの田村剛(アーツセンターあきた)

唯一無二のランドスケープを「流れ山」と人々の生活との応答関係から読み解く

秋田公立美術大学准教授

井上宗則 Munenori Inoue

「流れ山」とは、山体崩壊で生じた岩屑なだれが作り出した小山のことで、世界各地に存在しています。ただ、にかほ市の流れ山には、他の地区では見られない次のような特徴があります。
①個々の流れ山を容易に識別することができる。
②流れ山の土地利用が図られている(生活空間の一部になっている)。
③集落ごとに流れ山の規模が明確に異なる。
これらの特徴は、地質学の知識や歴史的背景を知らなくても目で見て実感することができます。というより、仁賀保地区や金浦地区を歩いていると流れ山は嫌でも目に入ってきます。地元の人にとってはあまりにも身近で、その特異性に気づきにくいともいえます。だから外からの目が必要になる…と言いたいところですが、かくいう私も、流れ山の存在を意識したのは現地を訪れた時ではなく、地形を3D化した時でした。
非常に特徴的な地形が広がっているのに、それを特異なものと感じさせないにかほの風景。それは長い年月をかけて流れ山と上手な付き合い方をしてきた先人のおかげなのかもしれません。

このような唯一無二なランドスケープを、流れ山と人々の生活との応答関係から読み解き、にかほ市を特徴づける地域資源として多くの人と共有したい、そんな思いで研究に取り組んでいます。

鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会協力のもと金浦地区で開催した「いっぽ にほ にかほ ながれ散歩」では、野内隆裕氏(路地連新潟代表)と大野希一氏(鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会 事務局次長兼主任研究員)による講演とディスカッション、鳥海山・飛島ジオパーク認定ガイドの案内によるまちあるきを実施。にかほ市内外から集まった参加者と共に金浦の地形を歩きました

プロジェクトの過程を公開する 研究レポート《手長足長》で地域と学術研究をつなぐ

ジオカルチャー研究プロジェクトでは、新たな研究領域をひらく各プロジェクトの過程を研究レポート《手長足長》(タブロイド判)によって公開しています。アーツセンターあきたは制作を担当。一般的な学術研究は、その過程において公開されることは少ないものですが、本プロジェクトではリサーチ段階のレポートや研究過程を公開することで地域と研究の橋渡しを試みます。
1200年前に小砂川地域の三崎山にいたとされる巨人「手長足長(てながあしなが)」を、「ジオカルチャー研究プロジェクト」を包摂する概念として設定。「手を伸ばせば鳥海山の頂まで届き、足はひとまたぎで飛島まで届くといわれ、人々を恐れさせていた」という伝説の怪物です。大地を大きく包み込む身体性や、手を伸ばし、頂から岩を投げるかのような崩壊によってにかほ市の地形が生まれたスケール感や躍動感、伝説から繋がるチョウクライロ舞、鳥海山麓に続く番楽等の文化。手長足長の伝説とともに、にかほに潜む見えない領域を探り、土地の輪郭を浮き上がらせます。
尾花賢一の表紙絵が目を引く《手長足長》はこちらからご覧いただけます。

研究レポート《手長足長》

美術的な視点から取り組む地域活性化

にかほ市企画調整部総合政策課

舘岡里海 Satomi Tateoka

2020年10月、当市と秋田公立美術大学は連携協定を締結し、翌年に「にかほ市リサーチ」として、教員や学生の皆さんによる研究が行われました。そこから始まったのが「ジオカルチャー研究プロジェクト」です。それは、一般的にイメージされる絵画や彫刻の制作のような「美術」とは一線を画すものであり、美術を生業とする人たちの視点から、にかほ市の地域資源や継承されてきた文化の奥に秘められた可能性を引き出し、新たな研究領域をひらくという試みです。

萩原先生は、学生の皆さんと一緒に市内の各所で「野外活動」を行います。たとえば、中島台。私だったら「あがりこ大王を見に行くのかな」と、そこへ行くことに「目的」を求めてしまうけど、彼らは「野外活動」をもっと違ったスケールでとらえています。
井上先生が興味を抱いたのは流れ山。市内のあちらこちらに存在していて、私にとっては、その存在に気付いていたような、気にも留めていなかったような流れ山です。日常の中に当たり前にある流れ山が、鳥海山の山体崩壊によって生み出されたものであり、象潟の九十九島と同じだと考えると、見かたも変わってきます。
そして、石倉先生の「野生めぐり」では、当市に残る伝統・伝承の数々が、鳥海山と日本海に抱かれたこの土地だからこそ生まれたものだと再認識させられます。「野生」の感覚を意識することで、私たちのいまの生活の根幹にあるものをもっと深く感じられる気がします。

秋田公立美術大学の皆さんには、当市の風土に魅力を見出し、ブラッシュアップを続けていただいていることに、この場を借りてお礼申し上げます。また、アーツセンターあきたの皆さんには、プロジェクトのコーディネートから研究レポート《手長足長》の制作までを担っていただいています。美術的な視点から当市の地域活性化にお力添えをいただき、誠にありがとうございます。

研究レポート《手長足長》を秋田空港ロビーやにかほ市観光拠点センター「にかほっと」に配架、展示することでにかほ市をPR

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

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