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内包されるもの、解放されるもの。「自由」と「不自由」へのアプローチから ー大森山「あそび×まなびのひろば Vol.5」ー

大森山公園を会場に5年目を迎えた「あそび×まなびのひろば」の今年のテーマは「自由/freedom」。感染症の世界的な蔓延や社会情勢などから感じた「自由」と「不自由」にアプローチした作品が、林の先へ、森の奥へと誘います。村山修二郎准教授のもと18組の学生や研究生、卒業生が参加した「あそび×まなびのひろばVol.5」をレポートします。

「自由」「不自由」へのアプローチから導く
作品と自然とのコミュニケーション

遊びのなかで学び、学びのなかから新たな遊びをつくる創造的な広場「あそび×まなびのひろば」は2019年に始まって以来、秋田市の大森山公園グリーン広場から彫刻の森を会場に開催されてきました。5年目となる2023年度は森づくり県民提案事業に採択され、遊具体験や造形鑑賞などが自由にできる森林体験イベントとして秋田公立美術大学が自主開催。7月30日から8月31日まで、真夏の大森山公園にさまざまな「空間」が展開しました。

村山修二郎准教授監修のもと、地域プロジェクト演習を履修する学生と卒業生がテーマとしたのは「自由 -freedom-」。コロナ禍や社会情勢などから感じた「自由」と「不自由」にアプローチした18点の作品が、林の先へ、森の奥へと誘います。内包されるもの、解放されるもの。作品と自然とのコミュニケーションが大森山に創造空間をつくりました。

あそび×まなびのひろば
▼大森山アートプロジェクト2019 大森山公園「彫刻の森」に秘密基地が出現!?
▼大森山アートプロジェクト2020 冒険しに行こう!大森山の「森の居場所」へ
▼大森山アートプロジェクト2021 「鳥の巣画廊」の巣箱をのぞいて、森のなかへ!
▼大森山アートプロジェクト2022 森で紡いだ「ことば」から、森と人との関係を知る

会期初日には本企画に参加した秋田公立美術大学と大学院の学生・研究生・卒業生が案内・解説するオープニングイベントを開催
オープニングイベントには小学生から一般まで参加。学生からのプレゼントを受け取って、にっこり

大地に張り巡らせた木の根の先に

廣田瑚斗美《その根の先に》は、地面を這う木の根をたどるように芝生に麻布やロープを配置。廣田は芝生の上にうずくまり、転がり、飛び越えたりと身体を大きく動かすパフォーマンスを披露しました。イメージの源泉は「裸足になったときに感じた芝生の触感」と廣田。地面に置いた布には「(できれば裸足で)木の根っこや麻のロープの上を歩いてください」との文字が。踏み締めた足裏から、木の根の力強さが伝わってきました。
「木は動くことのできない存在だとよく言われる。しかし、一度その根を見てほしい。彼らの根は太く、確かに地面を張り巡ってその生命を支えている。思うままに動けることだけが自由ではない。思考をめぐらし、他者を想像し、可能性の根をどこまでも伸ばしていくような『自由』もきっとあるはずだ」(作品コンセプトより)

廣田瑚斗美《その根の先に》は、地面を這う木の根をつたうように麻布や枯れ葉を張り巡らせた作品とパフォーマンスで構成

森で聞こえる音、風、言葉

大森山のなだらかな地形に横たわる大きな布団のような、枕のような物体は、森の枯れ葉を集めた徐津君による《大地の枕》。「森のなかの落ち葉の上に横になると、柔らかな枕の上に寝ているような快適さを感じることができます。大地は生命を育む最も快適な温床。自然との親密なふれあいを楽しんでください」と徐。巨大な枕に身体を委ねれば思いのほかふんわりとして、落ち葉の感触に包み込まれます。

透明な板が揺らめく森川紘歌《もりのけいじばん》は、グリーン広場の木の枝にさまざまな形に切り取ったアクリル板を吊るしたもの。「どんな音が聞こえますか?」「どこに行きたいですか?」「最近笑った話を教えてください」。そんな質問に答える掲示板には、子どもたちが文字を書き込んだり、絵を描いたり。マジックで書き込んだ言葉や絵が森のなかに浮き上がります。「今ここで見つけたもの、感じたことを、どうぞ自由に書き込んでください。今までピリピリ緊張していて固まっていた心のなかを、ゆるめて溶かして広げていって。あなたと自然を隔てるものはありません」(作品コンセプトより)

森川紘歌《もりのけいじばん》
竹を組み合わせることで楽器のような仕組みにした櫻庭萌咲《静と音》。「自然が奏でる風や木々の音、竹の隙間から感じる陽の光や影を体全体で感じ取ってほしい」と櫻庭
佐々木弓《かんじる》はコロナ禍での規制がゆるんだ現在だからこそ感じる「風」や「音」がテーマ。「風や音、触覚…自然がもたらすものは、人々の心・体を活き活きとさせてくれる力を持っている。小さな子どもたちが自分の感じるままに楽しめるような作品をつくりました」(作品コンセプトより)

自由と不自由。森と海のあいだで感じる
豊かさと、窮屈さ

木漏れ日のなかに広がっているのは、森ではなく、海。安藤日菜《樹海》は「森のなかに海を再現したい」と、森の高低差を海の水深になぞらえてカサゴやアンコウの魚拓、海藻などを配置した作品。さまざまな海の生物の姿が木々のあいだに見え隠れしつつ、森のなかに溶け込んでいきます。
「海に潜ると海の生物たちだけの世界が広がっていて、人に縛られることなく自由に生きているように感じた。陸地は、人間による支配に生物たちが追いやられ、自由を奪われている。しかし、海も海洋問題など人の手による窮屈を感じてきているのではないか。私にとって自由は、『豊かな海と豊かな森』そのもの」と安藤。タイトルの「樹海」は、森の木々や葉が揺れる様子がまるで海原のように見えることから生まれた言葉。大森山の森のなかで、魚になって泳ぐかのようなストーリーが展開していきます。

一方、ブラネン新那サイデ《へそのお》は、生物の成長や停止、その終わりを見つめた作品。木やツルを手繰り寄せ、撚り合わせたかのような《へそのお》が力強くうねります。生きていくことは、臍の緒で繋がっていた母からの自由。この絡み合っている自然物は、寿命が尽きることで繋がっていた大地から解き放された存在。

たて糸とよこ糸を交差させ、森を編む

草むらに腰を下ろし、手を動かしているのは研究生の深谷春香。木を支えに麻のたて糸を枝から垂らし、木と身体とを繋いで編む姿は、まるで森の景色を編み込んでいるかのよう。自作の織り機で枝やツル、葉をよこ糸として織った布が木の枝に吊るされ、風になびきます。タイトルは《環境を織る》。
「私たちの身近にある“布”は、たて糸とよこ糸の交差の連続によって生み出されている。“布を織る”という行為を見つめ直すなかで、私が不便だと思っていたことは場所と道具だった。場所に縛られず、自力で作ることのできる道具だけで自由に織るという発想を起点に、大森山に生えている木を織り機の一部として用い、その場にある草花を織り込んでいく」(作品コンセプトより)

木に吊り下げられた深谷春香《環境を織る》。たて糸とよこ糸の交差が大森山の環境を映す

草むらにポツンと白い物体を置いたのは浪岡道祐。《サイコウ個室》は、浪岡が「世界で最も自由な空間」として作ったトイレの個室です。トイレの中は「実は宇宙人と交信しているかも?実はスーパーヒーローに変身しているかも?実は魔法の練習をしているかも?」など何をしているのか他の人には分からない、自由な空間。「座って目を瞑って落ち着いてみる。その空間は一気に大草原へと! だからなんでもできるサイコウな場所!」と浪岡。ここにちょっと腰を掛け、目を瞑ってみてもいいかもしれません。

浪岡道祐《サイコウ個室》
遠田三織・根来日由吏《ちょこっとひと息》は麻布と麻紐でつくった秘密基地。無人島での暮らしをイメージ
鈴木麗《結びのひとと木》は、コロナ禍で対面での会話や交流の機会が減り、人と向き合う時間が少なくなったことからつくったコミュニティースペース。相手の言葉に耳を傾けようと糸電話も設置
電車内部の写真をプリントした布を吊り下げた劉孟琛《森電車》は、1コマに複数枚の画像を重ねて写す「多重露光」を森のなかに再現。どこにでも連れていってくれる森の電車。行き先は、どこだろうか

植物や枝葉を積み重ね、
ことばのちからを吹き込んで


会期初日のオープニングイベントは炎天下でしたが、グリーン広場には風が吹き抜け、彫刻の森にはしっとりとした気配がありました。これまでも「あそび×まなびのひろば」の会場となってきたこの空間に、今年はどんな作品が展開されたのでしょうか。

蔡雨×呂昭遠《こけピザ》には、金箔の板の上に四角い苔の塊が無造作に並べてあります。
「1.橋を渡って 2.好きな形をとって自由に遊んで 3.気に入った物をお持ち帰りください」
ひとつ、気になる塊を選んで持ち上げて移動させ、板の上にまた置いて迷って別の苔を持ち上げて……。森の片隅で時折、来場者それぞれが気になる塊を選ぶ姿がありました。
「内発的な選択は自由であると言える。それは個人の自己意識や内的動機に基づいて行われる決定であり、外部のプレッシャーや制限の影響を受けない。ただし、この自由が選択の結果も自由であることを意味するわけではない。選択の結果は、あらかじめ設定された結果である可能性があるだろう。これは、製作者、参加者、大森山の自然環境が作る作品である」(作品コンセプトより)

蔡雨×呂昭遠《こけピザ》
今井桜優里《自覚》

今井桜優里《自覚》は、森に設置した竹の触り心地、音、におい、その環境に身を置いて見えるものや感じるものにフォーカスした作品。「あなたが動けば、触れば、匂えば、私の作品が応えます。心が動いた瞬間、きっとあなたはあなたを自覚できるはず」と言います。

存在すること、不在であること

卒業生のミマチアカリは、道端の地蔵などへの興味から木を用いた木像等を制作しています。父の死をきっかけに人や事物の存在や不在への関心を強めたミマチは、秋田における自然界との特異な距離感に興味を持ち、秋田に移住しました。今回は、2020年に大森山の杉木立に設置し、風雨にさらされ朽ちつつも杉の木に存在する木製の面にアプローチ。「在る」とはどういうことなのか。この場所で3年の歳月を経た面を介して、木像とは異なる媒体による問いかけをします。

道端の地蔵や仏への興味から木像を制作するミマチアカリが彫刻の森の杉木立に設置した《大森山vol.4》
「信仰されなくなり廃れて消える存在、あるいは祀るものが廃れて自由になった祟り神などの存在を可視化」したという中土井陽太《異界》
大村香琳《なるものたちよ》は大学構内の桜の木から収穫した実をもとに、円形の台で行われた

森の小道に偶発的で不規則な光景を描いたのは曽根小椿《情景》。1日のなかでも、木漏れ日の変化によって情景は移り変わります。「光と影が織りなす、偶発的で不規則な光景をモチーフに制作しています。杉の木の間に、大森山公園内で出会った木漏れ日の表情を描きました。日々変化していく形が作品を照らし、毎日違う表情を作り出します。また、鑑賞者によって作品の見え方が変わります。あなたには何に見えますか」(作品コンセプトより)
日によって、時間によって。森のなかでその情景はどのように見えるでしょうか。

森の光や風によって趣を変える曽根小椿《情景》

■あそび×まなびのひろば Vol.5 自由 -freedom-
[学部生]安藤日菜 今井桜優里 遠田三織×根来日由吏 櫻庭萌咲 佐々木弓 徐津君 鈴木麗 中土井陽太 浪岡道祐 廣田瑚斗美 ブラネン新那サイデ 森川紘歌
[大学院生]大村香琳 蔡雨×呂昭遠 曽根小椿 劉孟琛
[研究生]深谷春香
[卒業生]ミマチアカリ
*監修 村山修二郎(秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻教員)

撮影:田村剛

Information

あそび×まなびのひろばVol.5「自由 -freedom-」

イベントは終了しました
●会期:2023年7月30日(土)〜8月31日(日) 10:00〜16:00頃
●場所:大森山公園グリーン広場周辺 ※動物園の第1駐車場を左に見て坂を進むと案内板があります。
●参加自由
※通常、スタッフはおりません。自然に近いエリアなため、無帽、黒い服装や軽装、サンダルなどでは危険です。蜂やけものなどにも十分注意してください。自然物はむやみに取ったり傷つけたりしないでください。小さなお子さまは保護者の方と一緒にお越しください。
●主催:秋田公立美術大学
●協力:秋田市大森山動物園、NPO法人アーツセンターあきた
●事業に関するお問い合わせ:
秋田公立美術大学 企画課 TEL.018-888-8478 ※令和5年度森づくり県民提案事業補助金で実施

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

高橋ともみ

秋田県生まれ。博物館・新聞社・制作会社等に勤務後、フリーランス。取材・編集・執筆をしながら秋田でのんびり暮らす。2016年秋田県立美術館学芸員、2018年からアーツセンターあきたで秋田公立美術大学関連の展覧会企画、編集・広報を担当。ももさだ界隈で引き取った猫と暮らしています。

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