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柳澤鉄工所×秋田公立美術大学 新製品開発プロジェクト

秋田公立美術大学は株式会社柳澤鉄工所(鹿角市)と共同で新製品開発プロジェクトに取り組んでいます。2024年には秋田公立美術大学の学生が合宿という形で、およそ一週間にわたり鉄工所の技術を学び、その経験をもとに美大生ならではの発想で新製品のデザイン提案を行いました。

Outline


委託者株式会社柳澤鉄工所
受託者秋田公立美術大学
事業期間2024年10月〜

秋田公立美術大学担当教員

柚木恵介(秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻准教授)

メンバー

中田大介(同専攻助手)
藤澤穂香(同専攻3年・当時)
津川沙千(美術学部2年・当時)

アーツセンターあきたの役割

受託者と委託者との打ち合わせの日程調整、学生と教員が行う現地調査・合宿の手配、試作品発表会に伴うプレスリリースや、アーツセンターあきたWebでの事業広報を行いました。

担当スタッフ


職人の技×美大生のアイデア

鹿角市にある柳澤鉄工所は、100年を超える老舗の鋼鉄加工業者です。
長い年月をかけて培った専門的技術を活かし、様々な産業機器を製造するほか、鹿角市のふるさと納税返礼品として、オリジナルの焚き火台を開発するなど、新たな試みも行っています。

「柳澤鉄工所×秋田公立美術大学 新製品開発プロジェクト」は、秋田公立美術大学でプロダクトデザインを学ぶ学生が合宿を通じて柳澤鉄工所の制作現場を体験し、その経験をもとに美大生ならではのユニークな発想とデザイン能力で新製品を提案するというプロジェクトです。
鉄を知り尽くした職人の確かな技術と、美術を学ぶ若い世代の新鮮な感性を融合し、新たな市場に参入することができる魅力的な製品開発に取り組みました。
秋田公立美術大学からは、ものづくりデザイン専攻の柚木恵介 准教授と、中田大介 助手、学生2名が参加しました。

現場の技を知る5日間

2024年11月、秋田公立美術大学の一行は鹿角の地を訪れ、一週間の合宿を行いました。
合宿期間中は毎日、柳澤鉄工所に赴き、たくさんの金属加工機器が並んだ工場を見学したり、職人による指導のもとで溶接や切削などの金属加工技術を体験したりしました。

プロダクトデザインを学ぶ学生たちにとって、自分たちのデザインする製品が、現場でどのように作られているか知ることは重要です。工場でしか触れることができない職人の技術と、豊富な加工機械による作業を目の当たりにし、リアルな学びを得ました。

手を動かしながら、鉄という素材にできること、できないことを知り、アイデアを形にするための知見を広げていきます。

工場の1日は朝の体操から始まる。

工場を見学する中で気づいたこともたくさんあります。その中の一つが、鉄によって作られた手作りの道具の存在です。
工場を見渡してみると、鉄の足を持つスツールや、バケツ専用のラックな現場での作業に必要とされる道具の一部が、ありあわせの素材を組み合わせて作られていることがわかります。中には、金属板を曲げて作られたペーパータオルのホルダーやプロジェクターの架台といった、市販品顔負けの什器も。
工場内ではありふれた金属板やパイプといった素材が、切断、曲げ、溶接などの加工によってその場で実用性のある道具に変身していたのです。工場で必要な道具すらも、自分たちで作ってしまうという現場ならではの創造性に触れ、新しいインスピレーションを得ました。

おや?この椅子……
プロジェクターの天吊り金具も
ペーパーホルダーも手作り!

1日の終わりの夕食どきは、自然とその日の学びや気づきを振り返る場になりました。「今日学んだあの技術から、こんなアイデアが湧いてきた」「あれができるなら、こういう形も作れるんじゃないか?」
合宿を通じて得られた現場の技術への知見や、工場内に散らばる様々なヒントが、この後のデザイン提案に大いに生かされていきます。
そして、合宿最終日にはアイデア出しワークショップを実施。テーブルいっぱいに模造紙を広げ、柳澤鉄工所の職人と秋田公立美術大学のチームが思い思いにペンを取り、それぞれの頭の中にある構想を書き出していき、協働の可能性を探りました。

夕食はチームで気づきを共有する重要な時間
アイデア出しワークショップ

デザインと試作品のラリー

秋田公立美術大学へと戻った一行は合宿での体験や、ワークショップで生み出された構想をもとにデザイン制作に着手しました。スケッチを重ね、図面を作成し、柳澤鉄工所の職人はその図面をもとに試作品を製作します。そこで浮き彫りになった課題をもとに、秋田公立美術大学のチームが図面を修正し、また新たな試作品が制作される……というラリーを繰り返しました。
離れた土地でも密に連絡を取り合い、試作品を送り合い、デザインを洗練させていきます。

津川さんの提案したアクセサリースタンド
試作品を紹介する藤澤さん
試作品の数々が並ぶ

そして2025年3月31日には柳澤鉄工所鉄工所の社屋内で、報道陣を招いて試作品発表会を開催しました。教員、助手を含む4名が7つの製品のデザインを提案。鉄工所の作業を体験する合宿を経たからこその、ユニークなデザインが生まれてきました。
それぞれが発表した試作品は、以下のリンクから詳しく見ることができます。

「なんとなくこんな感じ」では通用しないけれど

秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻

藤澤穂香、津川沙千

藤澤穂香
大きな機械や重い工具を扱い丁寧に、しかも素早く仕上げてしまう姿は何度観てもかっこいいなと思います! 最初は現場で働いている方々が少し怖かったです。しかしそんなことは無く、みなさん優しく技術や自分の過去について教えてくださいました。運ばれた金属がどんな機械で、誰がどのように操作して加工されているのかを実際に見て体験できたことは、ありがたい経験になりました。

私は今まで自分で考えたものを自分で作ってきましたが、今回は鉄工所の方々が形にするため、寸法を伝えるための図面を完成させなければならず、「なんとなくこんな感じかも」では通用しないことが大変でした。しかし現場の方々と相談したり、実際に見た加工方法を思い出したりしながら具体的な形になっていくのはとても楽しく、やりがいを感じました。自分が今使っているものはどうやってつくられてきたのだろうかと考えるようになり、ものを見る視点が増えた経験になりました。

津川沙千
実際に鉄工所を訪れるまでは不安もありましたが、職人の方々がどのような質問にも丁寧に答えてくださり、楽しく取り組むことができました。プロジェクトでは、レーザー加工や溶接、CNC加工などの技術を実際に体験しながら学び、鉄工所でどのように製品が作られているのかを理解したうえで、それらの技術を活かして何が作れるかを考えていきました。

自分のアイデアが実際の「もの」として形になるのは初めての経験で、完成品に触れて初めて得られる気づきも多くありました。なかでも、素材の厚みや接合方法によって印象が大きく変わることは、大きな学びとなりました。試作を重ねる過程では、形を検討する際のヒントとなる発見がいくつもあり、現場の雰囲気やものづくりのプロセスへの理解も深まりました。

完成したものが当初のイメージと異なることもあり、アイデアを具現化する難しさも実感しました。特に、金属の質感を活かしたシンプルなデザインを追求するなかで、重量感や接合部分の処理に苦労し、曲線の角度や仕上げなど、細部にわたって職人の方々と意見を交わしながら調整を重ねていきました。このプロセスを通じて、実際に手に取ったときの印象の重要性や、多角的な視点で物事を見ることの大切さを学びました。

さらに、自分のイメージを正確に伝え、他者と共有することの難しさと、そのためのスキルの重要性も実感しました。商品開発という観点からは、ターゲットや使用感など、実際に「商品」として成立するための視点を持つことの難しさにも直面しました。職人の方々と直接やりとりをしながらものをつくる過程は、とても楽しく、大きな学びのある貴重な経験となりました。

「新しいものづくりの形」が生まれつつある

株式会社柳澤鉄工所 総務部

伊東 和史

昨年度よりスタートいたしました「柳澤鉄工所×秋田公立美術大学 新製品開発プロジェクト」は、産学連携の新たな可能性を切り開く大きな一歩となりました。本事業では、大学側が持つ自由で柔軟な発想と、弊社が培ってきた職人の確かな技術とが結びつき、これまでにない新しい価値を形にする取り組みを進めております。

開始当初から、アイデアを具現化するために幾度も試作を重ね、その過程で議論や検証を繰り返しながら着実に前進してまいりました。その成果として、昨年度だけで7つの試作品を生み出すことができました。これらの試作品はいずれも、単なる試みの域を超え、実用化や市場投入へと繋がる可能性を秘めたものばかりであり、我々自身も大きな手応えを感じております。
特に印象的であったのは、秋田公立美術大学の皆様による自由闊達なアイデア発想です。私たち企業側だけでは思いつかない視点や斬新な提案に数多く触れることができ、その一つひとつが開発を進める上で大きな刺激となりました。一方で、その発想を具体的な形に落とし込み、品質や機能面を担保する役割は弊社の職人たちが担ってまいりました。両者の強みが噛み合うことで、単なる「産学連携」にとどまらず、「新しいものづくりの形」が生まれつつあることを強く実感しております。

本年度は、これまでの成果をさらに発展させるべく、試作品のブラッシュアップに力を注いでまいります。昨年度に得られた知見をもとに改良を重ね、いよいよ市場へ送り出せる製品として完成させることを目指しております。単なる研究開発にとどまらず、社会に届け、実際に多くの方々に使っていただくことで初めて「価値ある製品」となると考えております。その第一歩を秋田公立美術大学とともに踏み出せることを、大変心強く、また誇らしく感じております。

今後も、大学の豊かな発想力と、企業としての確かな技術力を掛け合わせることで、より多くの革新的な製品を世に送り出していきたいと考えております。そしてその取り組みが、地域社会や産業界全体の発展に寄与するものとなるよう、引き続き努力を重ねてまいります。

最後になりますが、このような貴重な機会をいただいた秋田公立美術大学の皆様に心より感謝申し上げます。今後も互いに切磋琢磨しながら、未来を見据えたものづくりを進めてまいりたいと思います。

対面での「関係性」を重視したデザインプロセス

秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻准教授

柚木恵介 Keisuke Yunoki

企業とのデザインプロジェクトにおいて、一般的にはメールや図面、オンライン会議といった遠隔でのやり取りが中心となり、試作と現地訪問を数回経て進むことが一般的です。これは最もスピーディで効率的な方法かもしれません。

しかし、大学という教育機関でデザインに取り組む場合は、単に「効率的に早くモノを作る」ことだけが目的ではありません。特に学生が関わるプロジェクトにおいて、クライアントである企業の情報──機械工作的な技術情報だけでなく、働く方々の人間的な側面、企業の歴史、そして鹿角という土地を知ることは非常に重要だと考えています。あえて時間をかけ、従業員の方々と交流し、互いのことを深く知るプロセスを経ることで、遠隔で作業する際にも、互いの顔や思いを想像しながら進行できます。「今頃、向こうで◯◯さんがやっているだろう」「うちの学生たちが考えることだから、こんなアイデアが出るかもしれない」といった、一見無駄に見えるかもしれない「効率以外のつながり」が生まれ、ものづくりへの愛情や責任感といった、より深い感情を生み出す土壌となると考えています。

昨年度の活動を通して、柳澤鉄工所の皆様の優しさや勤勉さに触れることができ、学生たちにとっても大変勉強になりました。また、「こういう機械があるから、こんな加工ができる」といった、具体的な機械や加工技術の現場を見学し、体験することができたのは、デザインの創造性を広げる上で重要でした。

今年度発案された製品案については、まだ機能的に未完成な部分や、現実化に向けて詰めるべき点があります。今後は、この部分にしっかりと時間をかけて取り組んでいきたいと考えています。

また、本プロジェクトの取り組みが、秋田市から少し離れた鹿角市との連携を通じて実現できたことは、大きな意義がありました。この事例をきっかけに、他の市町村や中小企業にも、「秋田公立美術大学とこんなことができるかもしれない」という連携の可能性が広がっていくことを期待しています。

私自身、工場見学などを通じて、製造業の方々や中小企業の持つ加工技術やモノづくりへの情熱に深くリスペクトを抱いています。活動を通じて、彼らが持つ「こんな面白いことをやっている」、「こんな技術を持っている」という情報を、少しでも広く世間に紹介することができればと考えています。

プロジェクトは2025年度も継続

柳澤鉄工所×秋田公立美術大学による新製品開発プロジェクトは2025年度も継続します。クリエイティブな挑戦をリアルタイムで発信するため、プロジェクト公式Instagramアカウントも始動しました。柳澤鉄工所×秋田公立美術大学 新製品開発プロジェクトの今後の展開をお楽しみに。

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

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