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2023年度 NEOびじゅつじゅんびしつ 「大きなキャンバスに絵を描きたい」

こどもたちの「やりたいこと」を後押しする「NEOびじゅつじゅんびしつ」(秋田公立美術大学主催)。2023年度は5人の挑戦を応援しました。「大きなキャンバスに絵を描きたい」と挑戦したIさんの詳細をレポートします。

「NEOびじゅつじゅんびしつ」(通称NEOび)は、アーティスト・柚木恵介さんによるプログラムです。柚木さんはこれまで神奈川県鎌倉市と長野県上田市を舞台に、こどもたちが自ら多様な個性と関わりながらモノやコトをつくり出す活動を展開してきました。

NEOびでは、こどもたちが自分1人の力ではもう一歩踏み出せない「やりたいこと」を、大人が「ふいご隊」(応援スタッフ)となって背中を押します。
「ふいご」とは火をつけたり火力を強めたりする時に風を送る道具のこと。ふいご隊はこどもたちのやる気の火種に風を送り込んで、燃え盛る火になるよう真剣に応援します。隊長は柚木さんです。

2020〜2022年度に小学生を対象としてグループで実施していたNEOびですが、本年度は少し対象の年齢を上げ、挑戦者自身だけで自分の「やりたいこと」の実現を目指しました。こどもたち自らが考え、相談や工夫をしながら壁を乗り越えていく、そのクリエイティビティを後押しします。

「NEOびじゅつじゅんびしつ」関連記事一覧

概要についてはまとめたレポートもご覧ください。

挑戦者の1人、Iさんのやりたいことは「大きなキャンバスに絵を描きたい」。
1枚の大きなキャンバスに向かって、絵を描き、日を追うごとに筆遣いや、海の絵が変化していきます。
Iさんの詳細をレポートします!

大きなキャンバスに海を描きたい

はじめて相談会に訪れた時、Iさんと柚木隊長はどのような絵を描いてみたいのか話しました。「普段は、自宅でアクリル絵の具を使って、小さな作品を描いている」とこれまで描いてきた絵のことも教えてくれました。

「自宅で大きな絵を描くと服や壁まで絵の具の色が付いてしまうと心配で、今まで大きな絵は描いてこなかった。だから、思い切って描いてみたい」と語るIさん。今回NEOびじゅつじゅんびしつという「やりたいこと」を応援してもらえる機会があり、やってみようと思い立ったと熱意を語ります。

そして「どんな絵を描いてみたいのか思い浮かべてみてね」という柚木隊長の問いかけに、「抽象的な海の絵を、大きなキャンバスに描いてみたい」と決意を教えてくれました。

そんなIさんに柚木隊長もどのような絵を描くのかワクワクが止まりません。まずはやってみようということで、早速日付を決めてスタートすることになりました。

絵が完成するまで道のりは紆余曲折

今回挑戦する絵のサイズは、キャンバス50号(1,167×910mm)。いつものなんと16倍の大きさです。
大きな絵を描くのが初めてのIさん。大きなキャンバスを目の前にして、Iさんはぐっと絵筆を握ります。

制作では、秋田公立美術大学内にあるアトリエももさだの一部をアトリエとして利用しました。Iさんは自宅以外で描くことに慣れていない様子で、初日のこの日を緊張の面持ちで迎えました。

筆や絵の具などの描画道具をこれから描くキャンバスの前に広げます。
早速鉛筆でどのような絵を描くのか、下書きを行います。うっすらと、キャンバスにIさんのイメージする海の絵が浮かび上がってきます。
下書きが完成したら、実際にアクリル絵の具で色をのせていく作業がスタートしました。

青色の絵の具だけではなく、使いたい色を思い思いに重ねていきます。Iさんは初日から2日間連続で描き続けました。

そしてまた日にちを置いて制作を再開した日。絵を描いている最中に、柚木隊長がどんな様子かうかがいに顔を出しました。

「ピンクを使っているところが素晴らしいね」とIさんの海の絵を眺めて褒める柚木隊長。
筆で絵の具を重ね塗りしていくIさんへ、「ところで、絵の完成はここだ!と決めているかな?」と問いかけます。
完成についてはあまり決めていない様子のIさん。柚木隊長は、そばにあるホワイトボードに絵が完成するまでの道のりを図で示しました。

「絵を描きはじめてから途中いろいろなことを考え、絵が変わってしまうことがあると思います。考えながら描いていく中で絵が変わったり、思い描いていた絵の完成から遠のいてしまったりします。絵の制作ではそうして悩んでいく過程がとても大事。思い描いていた完成から離れてしまい、全く違う絵になっても大丈夫だよ」とアドバイスします。

さて、話を聞いてみるとIさんは、普段は祖母が住んでいる鹿角を訪れた際に画材を購入するとのこと。遠すぎる…と感じたふいご隊は、秋田市内の画材屋を教えました。柚木隊長も良さそうな絵の具と筆、ペインティングナイフなどを持って颯爽と現れ、使ってねと去っていきます。

この後、Iさんは画材屋に早速行った様子で、モデペ(モデリングペースト)が画材に仲間入り…。やがて海の波になっていました。

Iさんは秋田市内にたくさんの絵の具やその他の道具を売っている画材屋があると知り、実際に行ってみて大変刺激を受けたようです。とてもうれしそうでした。

絵が、色が、重なることで見えてくる深い世界

制作は続きます。
たまにチラッと柚木隊長が覗きにきてくれます。柚木隊長は絵筆をとると、花を描き、海の色の深さの表現の仕方を見せてくれました。
おっとっと、そこは床に敷いたシートの上。キャンバスじゃなくてもあちこちに絵が出現します。

絵の具の乗せ方、色の深みを出すために必要なことを花の絵を通して知ったIさん。絵は着実に変化していました。大きな作品、そして海という抽象的なテーマに真剣な表情で向き合っています。

家で続きを描いて報告会に備えたい、そう言ってIさんは、絵を持ち帰り制作を続けることになりました。どのような作品が完成するのか、ふいご隊も報告会を楽しみに待つことになりました。

報告会で完成した絵をお披露目!

報告会の日。残念ながら、Iさんは予定が合わず、報告会には出席できませんでした。
ですが、会場には本人からの手紙とともに、完成したIさんの絵がありました。

報告の順番が回ってくるその時まで、伏せられていた絵。いよいよ順番が回ってきて、ふいご隊がIさんのメッセージを代読します。そして絵もお披露目されました。

太陽の光に照らされた海。
海の水面は青一色ではなく、さまざまな色が組み合わさっています。
波しぶきはモデペで盛り上げ、あちこちに工夫が凝らされています。

Iさんからのメッセージには「いつもとサイズが全く違うので、腕の動きが違ったり、はみ出したりして難しかった。ずっと挑戦したいことだったので、実現できてよかったです」と達成感がにじみ出ていました。

やりたいことがある挑戦者を待っています!

NEOびじゅつじゅんびしつは美術大学のプロジェクトですが、ものを作ったり、絵を描くこと以外の挑戦も大歓迎です。「ふいご隊」はこどもたちと学び合い、一緒に寄り添い、「やりたいこと」を成し遂げるために全力でサポートします。

やってみたいとずっと思っていることはありませんか?
2024年の募集は6月ごろ開始予定です。
あなたの挑戦を待っています!

■2023年度NEOびじゅつじゅんびしつ 挑戦者レポート一覧

▶︎「焚き火で料理をしたい」
▶︎「ウクレレが上手くなりたい」
▶︎「大きなキャンバスに絵を描きたい」
▶︎「プログラミングで自分の作った車を動かしたい」
▶︎「山に登りたい」

Information

クリエイトブラボー NEOびじゅつじゅんびしつ

2023年度の募集は終了しました

■事業名:クリエイトブラボー NEOびじゅつじゅんびしつ
■対象:秋田の小中学校に通う11-15才
■募集内容:自分が「やってみたいこと」
■担当教員:柚木恵介 (秋田公立美術大学ものづくりデザイン准教授)
■主  催:秋田公立美術大学
■企画運営:NPO法人アーツセンターあきた
■お問い合わせ:NPO法人アーツセンターあきた (担当:武藤、小野)
[TEL]018-888-8137 (受付時間平日9:00-17:00)
[E-mail]createbravo@artscenter-akita.jp
[WEB]www.artscenter-akita.jp
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Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

小野真利江

愛媛県生まれ。美大卒業後、ギャラリーにて展示企画・販売に携わる。その後愛媛の総合文化施設にて、展示・生涯学習、教育普及等さまざまな分野に触れる。2022年よりアーツセンターあきた事業チームに勤務。初の最北暮らしとなり、自然・文化を少しずつ堪能中。特技・美味しいみかんを探すこと。

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