arts center akita

2023年度 NEOびじゅつじゅんびしつレポート

秋田公立美術大学は、2023年度から11〜15歳を対象にしたワークショップを開催しています。その一つが、こどもたちの「やりたいこと」を後押しする「NEOびじゅつじゅんびしつ」。今年度は5人の挑戦を応援しました。5人の挑戦と報告会について、レポートします。

自分の壁を越えてみよう
NEOびじゅつじゅんびしつ

「NEOびじゅつじゅんびしつ」(通称NEOび)は、アーティスト・柚木恵介さんによるプログラムです。柚木さんはこれまで神奈川県鎌倉市と長野県上田市を舞台に、こどもたちが自ら多様な個性と関わりながらモノやコトをつくり出す活動を展開してきました。

NEOびでは、こどもたちが自分1人の力ではもう一歩踏み出せない「やりたいこと」を、大人が「ふいご隊」(応援スタッフ)となって背中を押します。
「ふいご」とは火をつけたり火力を強めたりする時に風を送る道具のこと。ふいご隊はこどもたちのやる気の火種に風を送り込んで、燃え盛る火になるよう真剣に応援します。隊長は柚木さんです。

2020〜2022年度に小学生を対象としてグループで実施していたNEOびですが、本年度は少し対象の年齢を上げ、挑戦者自身だけで自分の「やりたいこと」の実現を目指しました。こどもたち自らが考え、相談や工夫をしながら壁を乗り越えていく、そのクリエイティビティを後押しします。

「NEOびじゅつじゅんびしつ」関連記事一覧

本年度は、「やりたいこと」の応募受け付け後、応募者との個別相談で「なぜ挑戦したいのか」という思いを聞いた上で、5人の挑戦を応援することになりました。
約2、3カ月にわたる活動期間では、ふいご隊のサポートとともにそれぞれの「やりたいこと」に挑戦。最後には挑戦者が集まり、報告会が開かれました。

5人の挑戦のダイジェストと報告会の様子について、お伝えします!

1人目の挑戦「焚き火で料理がしたい」

1人目の挑戦者は「焚き火で料理がしたい」というYさん。
個別相談会では「料理が好き」「川沿いで焚き火をしたい」とやりたいことを語っていました。

当日、Yさんとふいご隊は、秋田市の大森山公園に集まります。Yさんの作りたいメニューは「焼き芋」「焼きマシュマロ」「プリン」「チョコバナナ」「ポップコーン」の5種類。Yさんは無事に火をおこし、おいしい料理はできあがるのでしょうか?
挑戦の詳しいレポートはこちらからご覧ください。

2人目の挑戦「ウクレレが上手くなりたい」

2人目の挑戦者はウクレレが上手くなりたいと挑んだSさんです。実はSさんはすでに弾けることは弾ける様子。ただ、独学で学んでいるので曲の途中で挫折を繰り返していることが悩みのようでした。
この機会にプロの先生に習いに行って、基礎をしっかり教えてもらうことにします。

さて、挑戦後の報告会ではどんな音色を響かせてくれるのでしょうか。
Sさんの挑戦の詳しいレポートはこちらからご覧ください。

3人目の挑戦「大きなキャンバスに絵を描きたい」

3人目の挑戦者は大きなキャンパスに絵を描きたいというIさんです。

Iさんはこれまでにも自宅でアクリル絵の具を使って小さな作品を描いているとのこと。柚木隊長が「どれくらい大きい絵を描いてみたいの?」と聞くと、意外と小さめ。「せっかくだからもっと大きい絵を描いてみたら?」というアドバイスで、普段描くサイズの約16倍の50号(1167×910mm)のサイズの絵に挑戦することになりました。

テーマは「海」です。日を追うごとに筆遣いや、海の絵が変化していったIさんの挑戦。
詳しいレポートはこちらからご覧ください。

4人目の挑戦「プログラミングで自分の作った車を動かしたい」

4人目の挑戦者は「プログラミングで自分の作った車を動かしたい」というKさんです。

プログラミングに興味があって学んでいるというKさん。これまでキットを使って画面上の2D、3Dの世界でしか動かしたことがないので、今回の挑戦では現実で動くロボットを作って動かしたいという思いがあるとのこと。
「どんなロボットを作りたいのか」を具体的に考えてみたところ、Kさんが作りたいのは、「障害物にぶつかりそうになったらセンサーで止まる車(ミニカー)」になりました!

どうやったら車を動かすことができるのか、そして果たして動かすことはできたのか。
Kさんの挑戦の詳しいレポートはこちらからご覧ください。

5人目の挑戦「登山がしたい」

5人目の挑戦者は「唐突に山に登りたくなった」と応募をしてくれたRさん。
個別相談会で、Rさんが挙げた希望の山は「太平山」でした。しかし、7月の大雨の影響で登山道が崩れてしまったため、今回は「秋田駒ヶ岳」に登ると決まりました。

暑い時期を避け、挑戦したのは秋の盛り。Rさんは山登りのパーティーのリーダーとして、ペースや登山ルートなども決めてふいご隊とともに頂上を目指します。

ただやりたいという思いを胸に登った山から見えた景色はどうだったのでしょうか。
Rさんの挑戦の詳しいレポートはこちらからご覧ください。

報告会では表情晴れ晴れ

それぞれの挑戦に向かった5人。プログラムの最後となる報告会では、そのうち4人が初めて顔を合わせました。「大きなキャンバスに絵を描きたい」と挑戦したIさんは残念ながら予定が合わず、本人に代わって作品が参加しました。

スライドを使いながら順番に挑戦した内容と感想を報告し合います。「ウクレレが上手くなりたい」と挑んだSさんのウクレレの音色も響き渡りました。Iさんからは絵とともにメッセージを預かり、ふいご隊が代読しました。
こどもたちは緊張した様子ながらも、自分のやりきったことに自信を持ち、なんだかひとまわり大きくなったように見えます。

そして実は、活動日が延期になって「登山がしたい」という挑戦の前だったRさん。これから挑戦することを報告し、みんなで応援しました。

初対面の4人でしたが、報告の時にはお互いの挑戦に対して質問したり、他の挑戦者のやったことに対して自分も挑戦してみたいと伝えたり。報告会が挑戦者たちの刺激し合える場となっていました。

最後には、挑戦のご褒美に柚木隊長から手作りのメダルがプレゼントされました。

NEOびじゅつじゅんびしつは美術大学のプロジェクトですが、ものを作ったり、絵を描くこと以外の挑戦も大歓迎です。「ふいご隊」はこどもたちと学び合い、一緒に寄り添い、「やりたいこと」を成し遂げるために全力でサポートします。

やってみたいとずっと思っていることはありませんか?
2024年の募集は6月ごろ開始予定です。
あなたの挑戦を待っています!

柚木隊長からこどもたちへメッセージ

今年から少しマイナーチェンジをしたNEOびじゅつじゅんびしつ。これまでグループでやりたいことに挑戦してきた内容から、より個人の挑戦にコミットする形で臨むことになりました。見守り師もさらにパワーアップし、「ふいご隊」と呼ぶことにしました。(ふいご:火に風を送り焚き付ける道具)。後ろから風を送りみなさんの背中を押したり時には伴走したりと「勇気が出るお守り」のような存在になれるといいなと考えています。今回選ばれた5人の挑戦者たちも初めは緊張した面持ちでしたが、挑戦がスタートすると少しずつ雄弁になり最後は晴れ晴れと充実した顔を見せてくれました。

自分がやりたいことを自分の力でやり抜く。一見普通のことのように見えますが、大人が思うよりも実はハードルが高いものかもしれません。人に迷惑をかけてはいけません。とか、こうしてはいけません。とか、僕自身多分そう言われて育ちましたが、そんな「いけません教育」がまだまだ多い日本で、実はクリエイティブの芽は絶滅寸前なのではと思うからです。

だいぶ昔の話ですが、僕は小学校の壁に小さく鉛筆で落書きをして親を呼ばれたことがあります。しかし、先生には怒られる一方でなぜそうしてはいけないかを小学校低学年の僕にも理解できるよう教えてくれる先生はいませんでした。多分、「それはいけないことだと昔から決まっていているから」だったのでしょう。

それから約20年経ち美術大学で教員をしていた頃、学生4人組が教室の白い壁いっぱいに鉛筆で絵を描いていました。理由を聞くと、あるコンテストにそのパフォーマンスを出品したいのだとか。ふと小学生時代がフラッシュバックした僕は「ちゃんと賞を取ってから元に塗りつぶしてね」と伝えました。すると彼らは本当に賞を取り、以前よりも綺麗に塗りつぶしてくれました。彼らを信頼し、理由の不確かな「いけません」をしなかったことで、とてもクリエイティブな結果になった瞬間でした。

もう一つ重要なのは「失敗」です。正確にいうと、「失敗する権利を我々が奪ってはいけない」のです。大人の都合により効率的に成功させることで、子どもたちの中に何が残るでしょうか。達成感も経験値も記憶さえも擬似的に作られたもの。そんな気がしてなりません。失敗は悔しさを生みます。その失敗をもとに、改めて思考をチューニングする時間や場所があること。そして大人が一方的に手を差し延べなければ、子どもたちは我々の想像をはるかに超えるほどのクリエイティビティーを見せてくれるはずです。

このNEOびじゅつじゅんびしつが、子どもたちにとって安全に転べるはらっぱのような場であり続けますように。来年もまた、みなさんの「やりたいこと」を全力で応援します!たくさんのご応募をお待ちしています。
(柚木恵介)

Profile プロフィール

秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻准教授

柚木恵介

1978年鹿児島生まれ。2019年より秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻准教授。造形作家として活動を続けている。近々の活動は以下の通り。2016年/KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭出品(宮城県)。2014年/表現のチカラ 東京藝大セレクション展ディレクション(香川県高松市)。2014年/日本橋三越夏の芸術祭 ワークショップディレクション(東京)。2014年/小豆島アーティストインレジデンスディレクター(香川県小豆島)。2013年/瀬戸内国際芸術祭出品(香川県小豆島)

Information

クリエイトブラボー NEOびじゅつじゅんびしつ

2023年度の募集は終了しました

■事業名:クリエイトブラボー NEOびじゅつじゅんびしつ
■対象:秋田の小中学校に通う11-15歳
■募集内容:自分が「やってみたいこと」
■担当教員:柚木恵介 (秋田公立美術大学ものづくりデザイン准教授)
■主  催:秋田公立美術大学
■企画運営:NPO法人アーツセンターあきた
■お問い合わせ:NPO法人アーツセンターあきた (担当:武藤、小野)
[TEL]018-888-8137 (受付時間平日9:00-17:00)
[E-mail]createbravo@artscenter-akita.jp
[WEB]www.artscenter-akita.jp

NEOびじゅつじゅんびしつFAQ
クリエイトブラボーInstagram

Writer この記事を書いた人

アーツセンターあきた

武藤沙智子

秋田県生まれ。大学卒業後、航空会社系旅行会社で営業・企画・販売推進などの業務に従事。47都道府県を巡る旅好き。
奈良、宮城、大阪、千葉、埼玉と移り住み、2019年に秋田市の地域おこし協力隊 移住定住コーディネーターへの応募をきっかけに帰秋。退任後は民間企業を経て、2022年から現職。あきた発酵伝道師一期生。現在は発酵食品、伝統食、伝統工芸に興味を持っています。

一覧へ戻る